デッサンで必要な道具は、様々に紹介されています。しかし、それら全てを揃える必要はありません。これは描く人によって目的が違うためです。
鉛筆だけで絵画にしようとしている人と、デッサン初心者では、必要な道具が違ってきます。
例えば、鉛筆画で有名な画家の木下晋(※1)は9H~9Bの鉛筆を使い分けるそうです(※2)。
しかし、初心者がこれだけの鉛筆の幅を、絶対に使いこなさなくてはいけない、ということはありません。デッサン初心者は、まずは必要最低限の道具を揃えると良いでしょう。あると便利な道具は、習い始めた後から必要に応じて揃えれば良いです。
そこで、デッサンをするにあたって、絶対必要な画材と、あると便利な画材について説明します。
もくじ
デッサンに絶対必要な画材
デッサンをするときに絶対必要な画材は以下です。
- 鉛筆などの描画材
- 練り消しゴム
- ケント紙または画用紙
- スケッチブック
- 紙を斜めに立てかける什器
- 紙を設置するボード
- カッターナイフ、ヤスリ
- クリップ、またはマスキングテープ
順に説明していきます。
鉛筆などの描画材
描画材とは、文字通り描くための画材です。代表例は鉛筆、木炭、コンテ、ペン、パステル、絵の具などです。
この描画材がないと、単純に描くことができません。そのため、何か1つで良いので、描画材が必要です。
特にこだわりがないのであれば、初心者の方には鉛筆がおすすめです。安価ですし、失敗しても消すことができるので、心理的ハードルが低いためです。
デッサン用の鉛筆はいくつか種類があります。これについては後述します。
練り消しゴム
続いて練り消しゴムです。これは初めて聞く方もいるかもしれません。よくあるプラスチック消しゴムとの最大の違いは、柔らかさと粘度です。練り消しゴムの柔らかさと、粘度の高さのおかげで、画面を傷つけることなく鉛筆の粒子を消すことができます。
例えば、デッサンでは鉛筆で描いたものを全部消すのではなく、少しだけ薄くしたい、というシーンが多々出てきます。プラスチック消しゴムでそれは難しいですが、練り消しゴムでは簡単に実現できます。
練り消しゴムをボール状にまとめて、画面の上をコロコロと転がせば、画面全体の色を消してしまうことなく、薄くすることもできます。
このように、プラスチック消しゴムだけでは難しい色の調整も、練り消しゴムを使えば簡単にできます。
ケント紙または画用紙
描くためには、描画材に合った支持体が必要です。支持体とは、デッサンでは紙やキャンバスなどのことで、描画材を支え、定着させる物質のことです。
鉛筆を使ってデッサンをする場合、丈夫なケント紙や画用紙がおすすめです。描いたり消したりを多少繰り返しても耐えるほど厚みがあり、丈夫です。
このとき、ケント紙や画用紙であればなんでも良いという訳ではありません。特に画用紙は種類によって凹凸がかなり違います。鉛筆という、繊細な描画が可能な画材であれば、紙の凹凸は小さく、ツルツルしている方が良いです。
例えば、冒頭で紹介した木下晋は、ケント紙を使っています。ケント紙は画用紙に比べて表面の凹凸が小さく、繊細な表現も可能です。
美大受験のための予備校では、凹凸の大きな画用紙を使うところもあります。ただ、その大きな凹凸を生かしたデッサンは、ゴリゴリと粗野な印象になりがちです。
試験で画用紙を指定されているのであれば、それで練習する他ありません。ただ、凹凸の大きな画用紙に鉛筆で描いた絵が、絵として魅力的かと言えば疑問です。
社会人の方は美大受験にとらわれる必要はないので、鉛筆の繊細な色やタッチが出やすい、凹凸の小さな紙で描くのが良いでしょう。
画用紙という名前にとらわれず、丈夫で、凹凸が滑らかな支持体を選ぶと良いです。一例をあげておきます。
- ケント紙
- TMKポスター紙
- コットン紙
スケッチブック
ケント紙や画用紙などとは別に、スケッチブックも準備しておきましょう。これは気軽に描画するための紙です。
ケント紙や画用紙は、一枚あたりの単価が何十円と高いため、大量に紙を消費する実習に使うのはもったいないです。例えば、線を引く練習するときや、ジェスチャー画を描くときにケント紙や画用紙を使うと、コストがかかりすぎます。
また、スケッチブックは構図を考えたり、デッサンの明暗を計画したりするときのエスキース(下絵)にも気軽に使えます。
スケッチブックの代表例はマルマンのスケッチブックでしょう。サイズが色々とありますが、あまりに小さいサイズは練習に向きませんので、SS以上をおすすめします。
ただ、外出先でいつでもどこでもスケッチができるように、カバンに入る小さなサイズを持ち歩くのは良いと思います。
イーゼルなど、紙を立てて置く什器
デッサンをするとき、画面は自分の視線に直交させます。これは、画面と視線が直交していないと、画面のある部分が歪んで見え、デッサンが完成しときに、歪んだ部分の形が伸びたり、逆に縮んでしまったりするためです。
例えば、机の上に紙を置いて描くと、紙が上の方ほど、パースがかかって見えます。下の図の場合で考えると、AGが紙の底辺、Zが上辺だと仮定すると、Zの方が縮んで見えます。
この状態で描くと、完成した後に紙を立てかけてみたら、上の方に描いたものが伸びてしまっていた、ということがよくあります。
そのため、机の上に紙を置いて描くのは望ましくありません。イーゼルか、製図板、トレース台のような、紙を斜めか、地面に対して垂直に置けるものを準備します。
ただ最悪、数枚の紙をずれない様に壁に貼ることでも、視線と画面を直交させることは可能です。
紙を支えるボード
イーゼルを使う場合は、イーゼルに直接紙をのせることができません。紙がグニャグニャと曲がってしまいます。
そこで、紙を設置するボードが必要になります。デッサンでよく使われるものはカルトン、またはパネルです。特にこだわりがなければカルトンで良いでしょう。
カルトンはボール紙でできており、弾力があるので濃淡も出しやすいです。パネルは合板でできていますので、硬いです。
カッターナイフ、ヤスリ
鉛筆を削るためにカッターナイフやヤスリ、芯削りも必要です。デッサンで鉛筆を使うときは、芯を4〜5cm出して使います。
こうすることで、より広い範囲を一度に塗ったり、尖った先端できめ細かく色をつけたりします。
そして、これは市販の鉛筆削りでは削れない長さのため、カッターナイフを使って自分で削ります。先端を尖らせるのが大変だったり、折れてしまう場合は、紙ヤスリで先端を尖らせます。メーカーなどはなんでもよく、100均のもので十分です。
紙を固定するクリップ、またはマスキングテープ
カルトンなどに紙を設置するときに、紙がずれないように固定するものが必要です。
よく見かけるのがシルバーの目玉クリップです。そのほか、マスキングテープや画鋲があります。
画鋲は紙はもちろん、カルトンやパネルに穴を開けてしまいますので、あまりおすすめできません。
また、マスキングテープも粘着力が強いと、剥がすときに紙を破いてしまうことがあります。その点注意が必要です。
クリップ、マスキングテープは派手な色を避けます。画面に向かっているときに視界に入ってくるのが、思いの外邪魔になるためです。
クリップであればシルバー、マスキングテープは薄い色で、無地のものにしましょう。また、製図用の透明のマスキングテープは綺麗に剥がれるのでおすすめです。
あると便利な画材
以下は絶対必要ではないものの、あると助かる便利な画材です。
- はかり棒
- 透明の下敷きと水性ペン
- さっ筆
- 羽ほうき
- シャープペンシル
- 芯ホルダー
はかり棒
これは自転車のスポークで代用されることが多いです。直径2mm程度の曲がらない棒であれば、他のものでも代用できます。園芸用のワイヤーなどはまっすぐではないので代わりに使うことはできません。
形をとるときには直線であたりをとると形の狂いがわかりやすいので、その直線の角度を測るときに使います。プロポーションなど、サイズを測るときにも重宝します。
透明の下敷きと水性ペン
画面と同じ比率の枠を描くと、写真をとるときにように、どこにモチーフを納めるかを検討することができます。
また、形があっているかをチェックするときにも使えます。下敷きを、実際にモチーフにかざしてトレースし、画面の上に持ってくると、自分でも形の狂いが一目瞭然になります。
水性ペンであれば、水で消して、何度でも形をトレースすることができます。
さっ筆
これは鉛筆の粒子を紙にすり込むときに使う画材です。紙を棒状に丸めて、先端を鉛筆のように尖らせてあります。
暗部の中を陰影らしく見せるために、ティッシュやガーゼで鉛筆の粒子をすり込むことがあります。しかし、細かいところをすり込むのの、ティッシュやガーゼでは難しいため、先端の尖ったさっ筆を使ってすり込みます。
羽ぼうき
これは画面の上のゴミを取り払うために使います。
特に練り消しゴムで消した後は、粘度の高いゴムのくずが紙に付着しています。この上から鉛筆を乗せると、そこだけ色むらができやすくなります。
そのため、練り消しを使った後に、羽ぼうきで払い、練り消しのくずを紙の上から取り除きます。
シャープペンシル
シャープペンは先端を尖らせる必要がないので、気軽に使えます。特に繊細に色を乗せていく、仕上げの段階で役に立ちます。
芯ホルダー
これは鉛筆の芯をハサむホルダーのことです。
専用の芯削りで先端を削るだけで良いので、鉛筆より描く準備に時間が取られません。三菱のuniの芯が、種類豊富に市販されています。
鉛筆は何が必要か
画材の中で、鉛筆を選ぶのが一番大変かもしれません。デッサン用の鉛筆の種類が多すぎるからです。
日本では三菱とステッドラーの2社が有名です。三菱はその中でも「Hi-uni」と「uni」の2ブランドを展開しています。ステッドラーはマルスルモグラフが代表的です。
さらに、それぞれのブランドで、複数の鉛筆の硬度(濃さ)があります。以下の図を参考にしてください。最大で10B〜10Hまで硬度のバリエーションがあります。
全部試すのはもちろんおすすめです。実際に使ってみることで、自分が使いやすいものがわかるためです。
ただ、どの鉛筆が合うかとあれこれ悩んでいる間に、さっさと描き始めてしまった方が良いのも事実です。そこで、以下に私がよく使っている鉛筆を参考として紹介します。
私が使っている鉛筆を紹介
私は受験期に、上にあげた3ブランドの多くを試しました。しかし使ううちに、4Bより柔らかいものと、2Hより硬いものは使わなくなりました。これは4Bよりも柔らかいと、黒鉛の色がテカって色が変化して見えるためなのと、2Hより硬い色は筆圧の調整で薄くできるからです。
また、色は「Hi-uni」が一番綺麗だと感じます。同じ硬度でも、三菱の2社は柔らかく、ステッドラーは硬い描き心地です。私は基本的に三菱の「uni」を使っています。
硬度は目的と気分に合わせて使い分けていますが、基本はHBを使っています。単純に一番使いやすい硬度です。
消しやすく、薄くも、ある程度濃くも描けます。また、バサバサしにくい、固すぎない硬度です。
あたりをとるときにHBを使えば、仕上げの段階でその線が画面で邪魔にりません。例えば、2Hなどであたりをとると、知らない間に画面が凹んだり傷がついて、仕上げの時に邪魔になることがあります。2Hは色が薄すぎるので、つい筆圧を強くしてしまうからです。
そういった点でも、HBは筆圧を弱くして描いてもうっすら見えるので、あたりをとるときにちょうど良いのです。
そのため、基本は序盤から中盤までHBで描いています。そして、仕上げに移っていく段階で、HBでは出せない濃い色が欲しいところに、2Bと4Bを少し使うことがあります。
もちろん、最初から最初までHBだけのこともあります。さらに、細かいところは先端が尖っているほど描きやすいので、シャープペンシルも使っています。
スケッチやクロッキーをするときの鉛筆
スケッチやクロッキー、ジェスチャー画で差の激しい濃淡を出したい場合は、硬度が柔らかい鉛筆か、コンテ調の鉛筆がおすすめです。主に線をメインで描写する時に使います。
私の場合は、先ほどの3ブランドであれば、4Bより柔らかいもの。それ以外では、ピエールノワールなど、コンテの様な描き心地で描ける鉛筆を使っています。
コンテ風の鉛筆は色幅がだしやすいので、一本の線でも濃淡が出せます。濃淡を生かした絵にはもってこいです。
以上の様に、その時の目的に合わせて数本の鉛筆を使い分けています。
まとめ
まずは、HBのデッサン用鉛筆とケント紙、スケッチブック、練り消しゴム、カッターナイフ、画面を傾ける什器、ボード、紙を止めるものがあれば、デッサンをスタートできます。
後の道具は、途中で必要に応じて揃えていけば問題ありません。画材であれこれ悩むより、とりあえず始めるのが上達の秘訣です。成果を出す人というのは必ず、行動する人だからです。
極端な話、1年間本を読んで勉強するだけでは、デッサンが上達しませんが、家にあるHBの鉛筆で毎日デッサンを1年すれば、デッサンはそれなりには上達します。
画材選びに迷ったら、とりあえず上記のものだけを揃えて、線を一本引くところからでも始めてみましょう!
注釈と参考
※1
木下晋(日本:きのしたすすむ)
1947-