「練り消しゴム(英:kneaded eraser)」とはデッサンにとても適した消しゴムです。「ねりけし」、「練りゴム」とも呼ばれています。鉛筆や木炭のデッサンで使われる代表的な消し具です。
練り消しゴムはその製造工程で、成形材として合成ゴム、可塑剤(吸油性含む)としてサブ(ファクチス)、主に吸油材(油分の滲出を防ぐ)として炭酸カルシウム、軟化材として鉱物油、表面の癒着防止としてでんぷん、などが用いられています。
練り消しゴムを使うメリット
練り消しゴムを使うメリットは「紙を傷めない」「画面を汚しにくい」「形状が変えられる」の3つです。
練り消しゴムは消す時に紙を傷めません。固形のプラスチック消しゴムや砂消しゴムなどは、硬いので使った時に紙の表面を荒らしたり潰したりしやすいです。
紙の表面が潰れた部分に鉛筆などの顔料を乗せると、潰れていないところと顔料の乗りかたが違いが生まれ、それが描画上のノイズとなってしまいます。
そのため、繊細な表現が求められるデッサンにプラスチック消しゴムや砂消しはあまり使わず、練り消しゴムを使います。
また、練り消しゴムは画面に余計な汚れをつけません。
描いた線をプラスチック消しゴムを使って修正しようとした時に、一度で取りきれなかった顔料の粉が消しゴムの移動と共に引きずられ、画面を汚してしうことがあります。これを避けるためには、プラスチック消しゴムが黒ずむたびにその部分を机の上などでこすり、綺麗な消しゴムの面をむき出しにしなくてはいけません。
デッサンでは描画時に粉末が多くでる描画材(3Bより柔らかい鉛筆、木炭、パステル、コンテなど)を扱うことが多く、プラスチック消しゴムを1、2回使用しただけで、黒ずみを落とす必要が出てきてしまいます。それどころか、顔料粉が多すぎてそれを撫でて広げるだけになることもあります。
練り消しゴムであれば、その軟らかさと粘着性を利用してたくさんの顔料粉でも取り除くことができます。たくさんの顔料粉がついても、指で練り直すことそれを中に巻き込み、すぐに使えるようになります。
こうして画面を不必要に汚すことなく、任意の描画部分を自由に修正することができます。
さらに、練り消しゴムは形を自由に変えることができるため、色々な修正の仕方ができます。
練り消しゴムを尖らせて画面上のごく細かい部分を修正したり、球状や棒状にして画面の上で転がしたりすることで広い範囲を修正します。
練り消しゴムの使い方
練り消しゴムは紙表面の繊維に付着している顔料を練り消しゴム自体に吸着させます。それを指で練り、その内部に巻き込むことによって繰り返し使います。使う前にある程度練って柔らかくします。
プラスチック消しゴムや砂消しゴムのようにゴシゴシと画面をこするような消し方はせず、トントンと、上から優しく叩くようにして、除去したい顔料を練り消しゴムの表面に吸着させて画面から取り除きます。
ただ、この消し方では顔料粉を完全に除去できずに、紙の上に少し残ってしまいます。しかし、紙へのダメージを考えると、描画が完全に消えるまで消し具を使うのは避けた方がよいです。練り消しゴムでも、多少は紙表面を荒らすので、完全な修正は極力行いません。そのため、繊細な筆圧で制作を進めていき、できる限り練り消しゴムの使用回数を抑えるほうがデッサンの進め方としては堅実です。
練り消しゴムは適量分をちぎって使用します。市販されている状態のものを丸々一個使うと、大きすぎて使いにくいです。かといってちぎり取った量が少なすぎると、早々に練り消しゴムが顔料粉でいっぱいになってしまい、画面を汚してしまいます。私の経験では、片方の手の親指、人差し指、中指の3本だけで無理なく練ることができるぐらいがちょうどよい大きさです。
練る前の状態では硬いので、ちぎったら手の指先を使って少し軟らかくなるまで練ります。引きちぎったり、こね回したりしているうちにだんだん軟らかくなってきます。
練るのは10秒前後あれば十分です。手の温度が高かったり、練りすぎたりしてベタベタになったら練りすぎです。その状態だと、使った時に練り消しゴムの表面が支持体表面の繊維に絡みついてしまうなど、かえって画面を荒らしてしまうことがあります。
練り消しゴムでそれを消す時は、とんとんとん、と2、3回優しく叩きます。それを繰り返せばそれだけ線が薄くなっていきます。強く叩けば紙の凹凸が潰れてしまいまうので、そうならないように優しく叩いてください。その後、表面についた顔料粉を練ることで中に巻き込み、すぐに使えるようにしておきます。
交換のタイミングと注意点
何十回と練り消しゴムを使うと、だんだん黒ずんできます。すると練り消しゴム自体が画面を汚すようになってきます。これは巻き込んだ顔料粉が練り消しゴムと混ざって滓(かす)として出てくるためです。そうなったら新しい練り消しゴムを出しましょう。
また、長時間手で握ったままでいると、体温などで加温・加湿され、練り消しゴムの表面は徐々にふやけてきます。これによっても簡単に画面を汚してしまうことがあります。「練り消しゴム」には鉱物油が添加されているため、ふやけた練り消しゴムから紙の繊維に油移りする場合があるのです。
そうなってしまったときはしばらく触れずにいると、もとの「練り消しゴム」の状態に戻ります。くれぐれもふやけてベタベタした状態の練り消しゴムで画面を修正しないようにしてください。
練り消しゴムのメーカー
練り消しゴムを製造しているメーカーはたくさんあります。製品によって硬さや粘着の程度などがずいぶんと違うので、2つ以上の異なる「練り消しゴム」を試したりして特徴を見極め、自分が使いやすいと感じたものを選んでください。
また、違う「練り消しゴム」を2つを混ぜ合わせ、自分の使いやすいようにカスタマイズするのもありです。
参考にいくつかのブランドを紹介しておきます。
- バニーコルアート「IZ CLEANER(イージー・クリーナー)」
- ホルベイン「KNEADED RUBBER(ニーデッド・ラバー)」
- 伊研「ネリゴム Paste Eraser(ペースト・イレーサー)」
参考と脚注
長野悦子「”サブ”って何?」pdf、日本ゴム協会ウェブサイト(閲覧日:2015年10月)
サイエンスチャンネル 動画「(139)消しゴムができるまで」(閲覧日:2015年10月) 2022より閲覧不可
株式会社シード ウェブサイト「消しゴム工場」(閲覧日:2015年10月)