イーゼルは目的に合わせていくつかのバリエーションがあります。例えば、クロッキーに向いているもの、油絵制作、野外スケッチなどがあります。
イーゼルを使わずに、卓上に紙を置いて描くと、正確な形を描くのは難しくなります。パースがかかって、紙が奥に縮んで見えるためです。
写実デッサンをやりたいと考えている方は、最低一つ、イーゼルを持っておきましょう。
イーゼルのメリット
イーゼルは支持体(キャンバス、木板、紙など)と支持体の下敷きとなるカルトン(仏:carton、画板)などを固定し、支えてくれます。カルトンやキャンバスは軽くないので、手で支え続けながら絵を描くことはできません。そこでイーゼルが必要になります。
また、イーゼルは支持体を好きな高さに固定することができます。デッサンでは画面の中心と描き手の視点は同じぐらいの高さに設定するのが基本です。
画面の中心が描き手の視点の高さより随分上にあると首が疲れたり、画面の上部にいくほど描いた図像が収縮して見えたりするからです。逆に画面の中心が描き手の視点よりずっと下に来ると、画面下部が収縮して見えます。
例えば、図の点A, B, C, Dの距離は等間隔です。点A,B,C,Dそれぞれと視点を結んだ点線は線分JKを等間隔で区切ります。点E.F.G.H.Iも等間隔で同じように視点と結んだ点線がありますが、線分LMは上に行くほど短く区切られてしまいます。
この状態で描画をすると、絵から数メートル離れて見た時に、画面の上部にいくほど絵が間延びしていることに気づくことはよくある話です。
イーゼルを使うことで、自分の視点に合わせた位置に画面を持ってくることがで、上述のような問題を避けることができます。
イーゼルの種類
イーゼルはいくつかの種類がありますので、目的に合ったものを選びましょう。
イーゼルの種類は大きく分けて3通りあります。1つ目はアトリエイーゼルもしくはスタジオイーゼルと呼ばれ、画家が室内で絵を描くときに使うことを想定したイーゼルです。
2つ目は野外用イーゼルと言われるもので、屋外での制作を目的にしたものです。
最後は展示用イーゼルです。街などで看板やメニュー表に使われたり、展覧会などで使用したりします。絵を描く際に使う想定で作られていませんので、丈夫さに欠けます。展示用イーゼルで絵を描かないようにしてください。
アトリエイーゼルはさらにいくつかの種類がいくつかあります。安価で設置が簡単な三脚型と、三脚型より高価ですが安定感のあるH型があります。また、Tを逆さまにした形をしているシンプルで場所を取らない型もありますが、これに関しては筆者が使用したことがないため使用感などはわかりません。
イーゼルの選び方
大きな絵を描くときはH型がおすすめです。三脚型だと支持体に力を加えた時にバランスをくずして倒れる恐れがあります。個人的な経験から言うと、三脚型でも安定して使えるのは木炭紙大サイズ(500×650mm)までです。
それ以上の大きさの絵を描く時は、H型イーゼルをおすすめします。H型イーゼルは基本的に重厚な作りで、重心が四方に分散しているのでとても安定的です。
H型は角度調整ができるものや、カルトンなどを乗せるだけでなく、上からも押さえられてより安定するものなど、便利な機能がついているほど価格が上がる傾向にあります。
画面の角度を垂直にできるH型イーゼルがあれば不便はないでしょう。金銭的に余裕があるなら私はそれをおすすめします。正確な写生や模写、大きいサイズの水彩画やアクリル画を描く時にも重宝します。
野外で絵を描く方は野外用イーゼルを使うのが基本です。アトリエイーゼルよりずっと軽く、折りたたみ式になっており、持ち運びが簡単だからです。多くの場合イーゼルを折りたたんだ状態で収納できる携行袋が付属しています。形は三脚のものがほとんどです。
野外用イーゼルの安定感はアトリエイーゼルの三脚型よりも少し劣ります。素材も細木やアルミ製のものが多く、重くて大きなものを支えることはできません。また、軽い素材を使っているので、簡単に倒れてしまうこともあります。そのような時は、紐などを一緒に携行し、石や木、柱などにくくりつけましょう。
油絵の制作を行う方は、油絵専用のイーゼルを準備してください。油絵の具は乾きにくく、油性ですから、紙に接触すると油染みを作ってしまうからです。紙を乗せるイーゼルとの共用は避けてください。それが難しい場合は、せめてキャンバスやカルトンを乗せる受けだけでも別に準備してください。
油絵制作は鉛筆を使う時に比べて力が入る場面が大いので、H型がよいと思います。
イーゼルの使い方
イーゼルの位置は描き手の利き手の側に置きます。イーゼルに支持体や下敷きを乗せますが、描き手の視点から見てモチーフに支持体が被ってしまわないように設置します。
描き手とイーゼルの距離は描き手の腕を画面に向かってまっすぐ伸ばした長さよりやや短いぐらいにし、かつ支持体の端まで腕が届くようにしてください。画面と描き手の距離が近いと、はかり棒での計測がやりにくく、また画面を見渡しにくいので形を客観的に検証しにくくなるためです。
次に、支持体を受けるトレイがあるので、その高さを調整します。支持体の中心、つまり画面の中心と描き手の視点の高さがだいたい同じになるところにトレイを設置します。この時、画面の角度が斜めになる場合は画面の中心を描き手の視点より低くします。
これは画面の角度は描き手の視点と直交するようにするためです。H型イーゼルで上からの抑えがある場合、画面を垂直にし、画面の中心と描きの視点の高さをほぼ同じにします。
その他のイーゼルは画面を斜めにしかおけないものが多いので、画面の中心を描き手より下に持ってきます。
これは斜めに立てかけられた画面の中心と描き手の視点の高さを同じにすると、画面の上部にパースがかかっているように見えるためです。これを避けるために、画面の中心より描き手の視線の高さを少し上に持ってくることで、画面を少し俯瞰するようにします。
このようにすると、視点と画面とが直交することになり、画面中心から上下左右の歪みは最も小さくなります。
あまりに画面が大きい場合は画面の中心と描き手の視点を同じにする必要はありません。画面の上部に手が届きづらいことがあるからです。この場合は画面の中心を視点よりやや下げ、画面を少し斜めにしましょう。またはいつもより頻繁に画面から離れ、画面全体をよく確認するようにします。
絵を描く時は視点の高さが変わるのを防ぐために背筋を伸ばし、その状態を維持したまま制作を行います。
参考と脚注
谷川渥監修、小澤基弘・渡邊晃一編著『絵画の教科書』日本文教出版、2001年