デッサン力を上げたい人は素速く描く練習をしましょう。
これは素速く描くことで自分の思考を追いつかなくするためです。思考させないことによって、感覚を最大限引き出してデッサンをします。
何かを考えようとしても、自分の手の速さに追いつかない。自分の手が速すぎて、形はあっているかな? うまく描けているかな? ということを一切考えさせずに、描くこととそのものに集中させます。
また、そうして自分に少し負荷をかけることで、観察力や感受性など、自分の力の限界を突破していきます。筋トレのようなものですね。
また、スケッチ、クロッキー、エスキースなどを行う場合も素速く描く必要があります。
しかし、素速く描くことは急にはできないので、必要な時にすぐにできるように訓練をしておきましょう。
素速く描くことで得ること
ゆっくりじっくり描くデッサンにしかできないこともありますが、逆に素速く描くことでしかできないこともあります。一瞬の出来事をつかんだり、移り変わるその場の雰囲気を即座に捉えたりすることです。
「民衆を導く自由の女神」で有名なドラクロワ※1はこんなことを言っています。
もし五階の窓から落ちる男を、地面に落ちるまでの間にスケッチできるほどの技量がなければ、堂々たる作品を制作することは決してできないであろう
画家は素速く描く事で自分の感覚をどんどん研ぎ澄まし、さらに感覚を鍛えていきます。
これは実際にやってみると面白くて、自分が描く事にどんどん集中して何かの感覚が加速していくのを感じます。言葉で言い表すのはとても難しいのですが、ゆっくりデッサンに取り組んでいる時の感覚とは全く違います。
素速く次々と対象を描いているうちに、対象になりきる、相手のジェスチャー(デッサンでは対象の軸・芯のようなもの)をつかむのもどんどん速くなっていきます。
どれぐらい素速く描くのか
具体的には、一枚10〜30秒で描き上げます。
この時間内に形などの表面的なことをデッサンするのは現実的ではありません。そのため自然と、対象の重要な軸・芯であるジェスチャーをデッサンすることになります。
対象が自分の目の前を通ったら、見た瞬間に対象のジェスチャーを自分の体に起こっていることのように捉えます。目で見るだけでなく、体全てを使って観察するようなイメージです。
そして対象が過ぎ去ったあとは、自分の体で感じた相手のジェスチャーを思い出しながら描きます。
これを十数枚、手をほとんど止めることなく続けていきます。うまく描けなくても気にせずに、どんどん描いていきましょう。出来上がりではなく、自分の感覚が変化していくこと、研ぎ澄まされていることに焦点を当てます。
具体的な訓練の手順を以下のテキストで紹介しています。
参考と脚注
B・エドワーズ『内なる画家の眼』エルテ出版、1988年
K・ニコライデス『デッサンの道しるべ』エルテ出版、1997年
アルバート・ボイム『アカデミーとフランス近代絵画』三元社、2005年
※1
フェルディナン・ヴィクトール・ウジェーヌ・ドラクロワ(フランス:Ferdinand Victor Eugène Delacroix)
1798─1863