「複数のモチーフで奥のものが奥に見えない」「向こうのものが迫ってきて見える」と悩んだことはありますか? 奥行きや空間を出すために、タッチを駆使したり、色の差をつけたりと、様々な工夫をあなたはされているかもしれません。
しかし、もっとシンプルな方法で奥行きや空間を描ける可能性があります。それは手前のものは大きく、奥のものは小さく見える、というごく当たり前のことを抑えることです。
当たり前すぎるのですが、意外と正確にできない方が少なくありません。
大切なのは見かけの大きさ
対象の大きさの差を利用して奥行きや空間を表現することを、ここでは「大きさ遠近」とします。大きさ遠近を使うためには、対象の見かけの大きさに注意を払う必要があります。
見かけの大きさとは、あなたの立っている位置から見たときの対象の大きさです。例えば、あなたが立っている位置からAさんを定規で測ったとき、何センチに見えるか、これが見かけの大きさです。
見かけの大きさは実寸とは違います。実寸とはAさんの場合なら、Aさんの身長のことです。どこから見るかではなく、その対象の実際の寸法を指しています。
思っているよりももっと小さい
自分から遠くにあるものほど小さく見える。それは当たり前だと思うでしょう。当たり前ですが、初学者がよく見落とす点があります。それは、遠くのものは自分で思っているよりも、もっと小さいということです。
見ている対象の見かけの大きさは、感覚で感じるのと計測してみるのとでは意外と違います。試しに 今、あなたの目の前にある幾つかの物のうち、あなたの位置を変えないまま、遠くのものを定規で測ってみてください。思ったより小さいと感じるのではないでしょうか?
あなたが普段のデッサンで感覚的に形を合わせることが多いなら、遠くのものを見かけの大きさより大きく見積もって描いているかもしれません。目測で正確に形を比較できるようになるための訓練として、まずはデスケルやはかり棒を使って自分の感覚との誤差を知りましょう。
きめ遠近と大きさ遠近の違い
テキスト「きめの遠近を使って奥行きのあるデッサンを」を読んだ方は、大きさ遠近ときめ遠近が似ているか、ほぼ同じだと思ったかもしれません。 この2つの違いは、遠近の手がかりになる対象に輪郭があるかないかです。
きめ遠近では鑑賞者の視点から遠くにある対象ほど、その対象の表面のきめの密度が高くなるのが観察されます。これは大気以外のほとんどの対象に当てはめることができます。そのため、輪郭を持たない地面や背景にも適応することができます。
これに対して大きさ遠近は、輪郭がある対象に適応されます。例えば人や車、花などです。輪郭を持っている対象は輪郭でくくることができるので、形を持ったものや図形として扱うことができます。形や図形がはっきりしているので、きめの遠近より、対象同士の比較が行いやすいというメリットがあります。
参考と脚注
ジェームズ J.ギブソン『視覚ワールドの知覚』新曜社、2011年
※1
エドガー(エドガール)・ドガ(フランス:Edgar Degas)
1834─1917