画家が筆を持った手を対象に向けて伸ばし、片目をつぶって対象を見ている。そんな光景を写真や映画、漫画などで見たことがあるかもしれません。あれは対象のプロポーションを測っているところなのです。
プロポーションとは、縦と横の長さの比、あるいはパーツと別のパーツとを比較したときの大まかなサイズ比のことです。プロポーションの他に、対象の形の角度を確認するのにもはかり棒を使います。
はかり棒を使うと、自分が描いた対象の形のどこが狂っているかをチェックすることができます。
はかり棒を使うときの4つのルール
1|背筋を伸ばす。
正しく計測するためには鉛筆の扱いと同様に、指先や手首だけでなく、肘や肩、腰まで使います。背筋が伸びたり曲がったりすると、それらの位置がその度に変わるため、正確に計測することができません。
2|はかり棒を扱うのは利き手・利き腕でなくてもよい。
3|計測する時は片眼だけを使う。
通常、ヒトの視覚は左右2つの眼(視点)によって視界を捉えています。そして、どちらか一方の眼から視える光景は、もう一方の眼との距離の分だけ異なっています。 これを両眼視差と言います。
両眼視差があるため、それぞれの眼から視える対象のプロポーションは少し異なっています。この異なったプロポーションを混同して計測してしまうと、1つの視点から見たような安定した像に見えない可能性があります。これを回避するために、計測にはいつも決まった方の片眼(通常は利き目)だけを使います。
4| はかり棒の尺に相当する部分(図の青色部分)の中央と視線を直交させる。
実寸(実際の長さ)は、どこから見ても変わりません。しかし、対象の「見かけ上の長さ」は視点の場所と共に変化します。例えば、親指を眼の前に出し、その先端を自分に向けてください。あなたの人差し指の実寸は変わりませんが、自分に向けた時には「見かけ上の長さ」が半分以下の長さになります。
これと同じように、はかり棒も前後に傾けることによって見かけ上の長さが変わります。毎回見かけ上の長さが変わるようでは尺としては機能しません。そこで、はかり棒は視線に対して直交しているというルールを作り、尺の見かけ上の長さが一定になるようにします。
はかり棒の持ちかた
まず、左右どちらかの手を出して、ひとまず軽く握り拳をつくってください。それから、親指、人差し指、中指の3本の指を開き、その指先ではかり棒の中ほどをつまみ上げます。
そして薬指の第一関節の甲面を、はかり棒に軽くあてがっいます。小指は持ちやすい位置に添える程度で大丈夫です。
この時点で、はかり棒を挟んで手の甲側に人差し指と中指、掌(てのひら)側に親指と薬指があるのが正しい状態です。これではかり棒を安定して持つことができます。
はかり棒を持つ「基本の体勢 」
はかり棒を持っている腕を前方へ出し、肘から手首、指の付け根または指の第二関節あたりまでおおむねまっすぐとなるよう、しっかりと腕をのばします。
指の付け根、または第二関節あたりから先は緩やかにカーブさせ、人差し指と中指の指の腹が、あなたの方を向くよう構えてください。
また、前述したようにはかり棒の尺となる部分の中央で視線とできるだけ直交させるようにします。
はかり棒をつかうときは、いつもはじめにこの体勢をとります。肩から指先までをほぼまっすぐにのばすことで、あなたの視点からはかり棒までの距離を固定しています。肘や手首を曲げるとその距離がその都度変わってしまうため、正確な計測ができなくなります。
はかり棒の使い方|縦横の比率
グラスを例にして縦横のプロポーションを測ってみましょう。
まずは上述した「基本の体勢」から始めます。そこから、手首だけをひねってはかり棒を水平にしてください。指は固定したまま動かしません。手首だけをひねります。また、片目だけを使う、頭の位置は絶対に動かさないことを意識し続けてください。
1|水平にしたはかり棒の先端を、肩の関節だけ動かして移動させ、グラスの輪郭の右端にぴたりと合わせてください。はかり棒は水平のままです。
2|はかり棒の先端とグラスの右端を合わせたまま、グラスの左端がはかり棒のどこに当たるのかを確認し、そこに親指の爪先を合わせます。はかり棒を持つ手の親指の位置をスライドさせて位置を調整するとうまくいきます。
グラスの左端が親指がスライドする範囲の外にある場合は、はかり棒自体を拳の中でスライドさせてください。この時、親指以外の形は変えません。
この「はかり棒の端」(グラスの右端)から「親指の爪先」(グラスの左端)までの距離が、今回の基準尺(図の青線部分=a)になります。この尺とあなたの視線はいつも直交するように気をつけてください。
3|基準尺aを保ったまま、手首だけをひねってはかり棒を垂直にしてください。
4|グラスの外郭の一番上端に、はかり棒の上端を合わせます。そして、その状態で基準尺aの端である親指の爪先がグラスのどの位置にくるかを確認します。この位置を「p」とします。グラス上端からそのpまでの長さ=基準尺aです。
5|グラスが基準尺a何個分なのかを調べましょう。そのために、はかり棒の先端をpまでずらします。手首から先は動かさずに、肩の関節のみを動かしてずらします。その状態で、基準尺aの端である親指の爪先がグラスのどの位置にくるかをまた確認します。
ずらした後も、尺の中央は視線に対して直交しています。このことは非常に重要であるにもかかわらず、しばしば忘れがちなので注意してください。
6|この段階までで見かけ上のグラス横幅2つ分( a×2=2a )の長さを測りました。このプロセスを、グラスの下端まで続けて行えば、グラスの縦の長さは横幅の何個分( aのn個分 )に相当するかを調べることができるわけです。
ただ、多くの場合「ぴったり尺が何個分」にはなりません。その時は「aがn個、加えて、aの3分の1」 などといったように、分数ないし小数として把握してください。だいたいで大丈夫です。
はかり棒の使い方|角度の比較
対象の主な形の角度・傾きを比べる際は以下の方法で行ってください。私個人の意見では、この角度・傾きを測る方法だけでも十分形を合わせることができます。
1|「基本の体勢」のまま、モチーフ上の任意の輪郭を大まかな直線に見立て、それに合わせて手首をひねり、はかり棒を傾けます。
2|はかり棒の角度と腕と上半身を固定したまま、腰だけを回して、画面の前まではかり棒を待ってきます。そこからは、腕を固定したまま肩だけを上下させ、計測した対象の形が描かれている部分にはかり棒を運びます。こうして、モチーフの見かけ上の輪郭の角度を画面の上に写します。
このはかり棒の移動の間、理想ははかり棒の角度が変わらないことです。とは言っても人のやることですから、多少ははかり棒の角度が動いてしまいます。
この問題を回避するために、計測は1回ではなく2回3回と行い、何回も確認することでより確かな角度を写すようにします。
縦横を測る時の注意点
はかり棒を使って縦横のプロポーションを計測する時は、多少の誤差が出ます。
これは描き手の視点の位置と肩の位置が違うためです。対象からある程度離れていたり、対象が小さい場合、この誤差はほとんど問題になりません。ただ、大きな対象をすぐ近くで描く場合はこの誤差によってプロポーションが狂ってしまいます。
この場合は角度の計測だけを行うようにしたほうが無難です。