デッサン初心者に。基本的な観察力を磨く練習

デッサンの上達には観察力が必要です。なぜなら、観察できていないことは描けないからです。

あなたがデッサンを始めて間もないのなら、デッサンをするのと並行して観察力も鍛えましょう。

また、初心者でなくても、あなたが「もっとよく観察しなさいと指摘される」「デッサンで必要な観察力って何?」という状態なら、ぜひこの練習を行い、基本的な観察態度について学んでください。

1. 練習の内容

・制限時間:30分
・目的:観察力を鍛える
・行動:モチーフの輪郭をゆっくりと、触っているように目で追って描く

練習の目的をより知るために、テキスト「観察力を鍛えてデッサンを上達させる方法」を読んでからこの練習を行ってください。

> 観察力を鍛えてデッサンを上達させる方法

1-1. 画材の準備

・スケッチブック、またはA4のコピー紙
・先を尖らせた2Bの鉛筆

> デッサンでよく使われているおすすめの鉛筆

スケッチブックを机の上か、カルトンの上に設置します。

> デッサン用のカルトン(画板)の特徴と使い方

1-2. モチーフの準備

あなたが右利きなら、あなたの左手をモチーフにします。あなたが左利きなら、右手をモチーフにしてください。

モチーフになった手で好きなポーズをつくります。この練習では1ポーズを30分で描きますので、30分キープできるポーズにしてください。

1-3. 手順1(1分)

最初の1分は鉛筆を使いません。まずは、モチーフの輪郭をあなたの指でゆっくりなぞっていきます。

ゆっくり、ゆっくりと、指先を輪郭に沿って移動させていきます。モチーフの凹凸、柔らかさ、温度、しっとりしているのか、ザラザラしているのか・・・指先から感じ取れる質感に意識を集中してください。

これを約1分行います。時間が短い中、ゆっくりとなぞるので、辿れるのはせいぜい指一本分ぐらいでしょう。

1-4. 手順2(29分)

ここからは鉛筆を使います。ただし、描いている間、鉛筆と紙は一切見ません。あなたの視線は、ずっとモチーフの輪郭に向け続けます。これは観察に集中するためです。

まず、鉛筆の先をスケッチブックの上に置きます。そしてあなたの視線は、モチーフの輪郭に向けます。輪郭のどこから観察を始めても構いません。

それでははじめましょう。先ほど、指先で触った感じを思い出してください。思い出したら、モチーフの輪郭に沿ってゆ〜っくりと視線を動かしていきます。この時、あなたが今見ている輪郭の部分の触覚をイメージします。凹凸、質感・・・できるだけ鮮明にイメージしてください。

それと同時に、あなたが視線を動かすのと同じ速度で、視線を動かした分だけ、鉛筆を動かしていきます。

鉛筆を動かしている間、紙と鉛筆は見ません。観察することが目的のこの練習では、形の正誤は一切問題にしないからです。

あなたが視線を動かす速度は、29分かけてやっとモチーフの輪郭を描き終えるぐらい、ゆっくりにしてくださ。それぐらいでないと、ついつい適当な観察をしてしまいます。

練習の結果例
練習の結果例

2. 途中で紙から線がはみ出る場合

紙と鉛筆を見ないで観察することに没頭していると、しばしば線が紙からはみ出してしまうことがあります。そうした場合の対処法は2つです。

1つは、紙のサイズを一回り大きくする。もう1つは、モチーフの端の方から観察を始め、最初に鉛筆を置く位置も端っこにすることです。

3. できたデッサンの形がひどい

出来上がったあなたのデッサンは、形が歪んでむちゃくちゃに見えるでしょう。しかし、これは単純に画面を見ないで描いたことや、「観察時間が長い箇所は線が長く、観察時間が短い箇所は線が短くなる」ために起こることです。

この練習では観察力を鍛えることが重要で、見栄えの良いデッサンを描くことが目的ではありませんので、デッサンの結果は問題にしません。

むしろ、しっかり形があっている方が問題です。なぜなら、その場合はチラチラと紙の方を見ながら描き、モチーフの観察に注意を注いでいない可能性が高いからです。

この練習では、「今見てる手って大体こんな形かな」といった客観的な目を持たずに、目の前にあるあなたの手を、まるで見たことがない、得体の知れないもののように見ます。

まじまじと穴が空くほど凝視し、どこがどうなっているか逐一確認するような観察態度が理想です。

4. 鉛筆をとがらせる理由

この練習で鉛筆を尖らせる理由は、輪郭のどこを描いたのかをより明確にするためです。

あるレントゲン写真にまつわる話を例にあげます。医学部の教授が「このレントゲン写真の中で影(異常を示すもやのようなもの)があるところをなぞりなさい」と学生たちに指示しました。

ある生徒はそれを受け、指で「ここです」と影の輪郭をなぞりました。しかし、教授は「指ではなく、シャーペンの先で」と再度指示しました。すると、その生徒は影の輪郭をなぞることができずに困ってしまいました。

なぜなら、指でなぞった時は「この辺り」と、大まかになぞることができたのですが、シャーペンの先でなぞろうとすると、明確に影の部分を指し示さないといけなかったからです。実のところ、この生徒は明確には影を見ることができていなかったのです。

参考と脚注

K・ニコライデス『デッサンの道しるべ』エルテ出版、1997年