観察力を鍛えてデッサンを上達させる方法

デッサンの上達には観察力が必要です。予備校講師や美大の教授が「よく見なさい」と繰り返し言うのはそのためです。

デッサンをするために観察することは、いくつかあります。例えば、形、陰影、ジェスチャー、量塊(立体)、色彩(トーン)などです。これらを観察できるようになるためにはその概念を知り、たくさんの訓練を積みます。

その中で、形に関係する「輪郭」を観察することは比較的易しいものです。なぜなら、「輪郭」というのはデッサンを行わない人でも日常で利用する手法なので、全く初めて触れるものではないからです。

その輪郭をじっくり見て描くことで、観察力を鍛える方法があります。

日常では省略が当たり前

たとえば、名前がわからない物を他人に伝えるとき、その物の大まかな輪郭を描いて伝えようとすることがあります。

その際、デッサンを習ったことのない人が描く物は単純な形に省略されます。たとえば、りんごならまず正円を描き、その上の方に一本の縦線を引いて蔕(へた)に見せようとします(Fig.1)。これは手数と観察の両方を省略してます。

Fig.1 省略されたリンゴ

デッサンをする際には、そのような日常で扱う「輪郭」をもっともっと事細かによく観察します。

よく見るとは細かいところまで観察すること

ここで、デッサンにおける「よく見る・よく観察する」ということについて考えてみます。簡単に見るというとあまりに漠然としすぎていて、何をどう見ていいのかわからないということになりかねません。少なくとも、私は初学者の頃はわかっていませんでした。

描く対象を、ただただじっと見つめても意味はありません。見つめていれば急に何かを悟る、ということも恐らくないでしょう。

デッサンでいう「見る」とはほとんどの場合「観る」であり、つまり「観察する」ことを指します。

小学校の理科の授業でも「観察」の時間があったと思います。そこでの「観察」は、観察する対象を知り、理解する目的で行われるものだったと思います。デッサンも同様です。対象を「観察」するとは、対象を知り、理解するために観ることです。「よく見る」とは「よく知る」とも言えます。

そして、対象を知り、理解するほどになるためには、細かいところまで注意深くじっくりと観る必要があります。

それでは「細かいところまで注意深くじっくり観る」というのを、私たちが慣れ親しんでいる「輪郭」を通して行う方法を紹介します。

Fig.2 ピカソ※1が描いたリンゴ

視覚と触覚で観察する

「輪郭」を細かいところまで注意深くじっくり観るためには「触覚」も使ってデッサンをします。

自分の利き手とは逆の手をモチーフにし、その手を自分の目の前に出します。その手の輪郭を、モチーフではない利き手の指先でなぞっていきます。

自分の手をなぞりながら、手の表面の皮膚の硬さや軟らかさ、筋肉の抵抗感などの弾力といった、様々な触感に注意を向けてみましょう。どのような触り心地か、どのような凹凸か…。

なぜそんなことをするのか。多くの人は視覚だけで輪郭を観察しようとすると、ここは丸っこい輪郭、ここは大体こんな感じに折れ曲がって見える、という程度の大雑把な観察をする傾向があります。しかし、それでは表現の内容が不鮮明で、実在感のある表現をすることができません。そこで、視覚とは別の情報、ここでは触覚を利用することで、観察から得られる情報量を増やします。

観察したことを線で描く

さて、指でモチーフの輪郭をなぞったら、実際に鉛筆を使って描いてみましょう。利き手に2Bの尖った鉛筆を持ち、紙の上に鉛筆の先端をつけます。

そして、先ほど指先でなぞった触覚を思い出しながら、モチーフの手の輪郭を目で追い、同時に描いていきます。思い出した触覚、凹凸に合わせて、そっと描いたり、少し力を込めたりします。

このとき、紙は一切見ません。なぜなら、目はずっとモチーフの輪郭を見ているからです。目の動きを線の動きを完全に一致させ、視線が動いた分だけ、線を引きます。

この練習はあくまで、細かいところまで注意深くじっくり観る訓練のためのものです。当然、出来上がった輪郭線の絵は形が崩れていますが、ここでは結果より観察を重視しているので気にしないようにします。

さらに具体的な練習手順はこちらをご覧ください。

> 「デッサン初心者に。基本的な観察力を磨く練習」

参考と脚注

B・エドワーズ『内なる画家の眼』エルテ出版、1988年
K・ニコライデス『デッサンの道しるべ』エルテ出版、1997年

※1
パブロ・ピカソ(スペイン:Pablo Picasso
1881─1973