デッサン力を上げるためには視覚以外の感覚も使います。
「デッサンは目を使って描く」と思うのが普通で、目を使ってとにかく網膜的に写し取っていく描き方をする人もいると思います。
しかし、私たちは普段、視覚以外の感覚、身体感覚すべてを使って対象を感じています。温度、音、匂い・・・それらも含めて、私たちはリアリティを感じているのです。
対象のリアリティを表現するためには、そのような視覚以外の身体感覚で感じたことも表現したほうがいいです。もちろん、それがどこまで可能か、それは無限ではないと思います。しかし、どこまでやれるのか、挑戦する価値はあるのではないでしょうか?
そして、身体感覚で感じ、身体感覚に訴えるようなリアリティを表現するためには、まず体を使って対象を観察することを意識する必要があります。
お店の雰囲気は肌で感じる
冒頭でも述べましたが、私たちは決して目だけでものを観察しているわけではありません。
例えば、場の雰囲気を感じる時です。あなたがコンビニに入ったとします。その時、あなたはその場の雰囲気と言うものを感じるはずです。「ここの店は入りやすいな」「このお店はなんだか居心地が悪いな」など、肌感覚とも言えるものでそれを感じています。
そして、あなたは店の中にあるすべてのものを見てそれを判断していません。むしろほとんど店の中を見ないうちにそれを感じているのではないでしょうか?
つまり、あなたは目と、目ではない感覚器官を使って、その場の雰囲気を感じ取っていると言えます。
人の感情を読み取るとき
人の感情を読む時はどうでしょうか?
あなたも誰かの気持ちを察したり、共感したりしたことがあると思います。その時、あなたは相手の感情をどうやって観察したのでしょうか?
もちろん感情は見えません。相手の顔を見て感情を判断する場合、相手の表情やその動き、顔の色などを見て、それを観察したのだと思います。
しかし、目からの情報のみでそれを観察したとは限りません。相手の顔をろくに見ずに横を通っただけで、「今日は機嫌がよさそうだな」「なんだか話しかけづらいな」と判断することもあるからです。
その相手の体の中に起こっている感情の気配を不思議なことに私たちを感じています。
音を頼りに対象を観察することもある
最後の例えは音です。
あなたの後ろを誰かが通ったのを想像するか、思い出してみてください。あなたはその人の方を全く見ていません。しかし、あなたはその人の気配を感じています。
歩き方、服のこすれる音、そのスピード・・・。それらから、あなたはその人が知人なのか、知らない人なのか。大人か、子供か。急いでいるのか、ゆっくりしているのか。落ち着いているか、それとも怒っているのか・・・。
相手の姿を見ずに相手の気配を感じる時、それらの情報をあなたは音だけで感じ取っているはずです。
身体感覚で観察する力を鍛える方法
このように、私たちは日常の中で、知らず知らずのうちに視覚以外の身体感覚を使って対象を感じたり把握したりしてるのです。
リアリティのあるデッサンをするには、これらの情報もしっかり意識して観察し、それをデッサンで表現しましょう。視覚以外で感じたことをデッサンで表すというのは、例えば、宮崎駿がアニメーションの中で、人物の感情表現を髪の毛の動きで表す、というようなことです。
さて、身体感覚で対象を観察する力は、相手に同調することで鍛えることができます。
とは言っても、完全に相手や対象に同調することはできないので、想像力でそれを補います。つまり、同調を前提とした想像力を鍛えることが、身体感覚を使った観察力を鍛えることにつながります。
モデルの前後のポーズを想像して描く
身体感覚を使った観察力を鍛えるために、モデルとなる対象の前後の動きを描く訓練を紹介します。
例えば、モデルがボールを打つために構えているバッターのようなポーズをとっているとします。
まずはそのポーズにあなたが同調します。重心、呼吸、体のどこに力が入っているか・・・。それらをモデルを見て感じ取り、それに同調します。もちろん、想像力で補う必要があります。
それができたら、1秒後にそのモデルがとっているであろうポーズを想像します。そして、そのポーズをデッサンします。もちろん、モデルがあなたの予想したポーズと全く同じポーズをとることは稀ですので、そこは問題にしません。
このような訓練を積むことで、同調を前提とした想像力を鍛え、体で観察する力を養うことができます。
この訓練法の具体的な手順は以下のテキストで紹介していますのでご覧ください。
当サイトでは、このような体で対象の全体を感じる観察を「ジェスチャーを観察する」と呼んでいます。ジェスチャーについて興味のある方は以下のテキストもご覧ください。
参考と脚注
※1
ルカ・カンビアーゾ(イタリア:Luca Cambiaso)
1527─1585