稜線はデッサンで立体を表すための大切な要素

デッサンで立体的な表現をするには、「稜線(りょうせん)」の理解とその表現が必要です。稜線は立体を表すための基本的な要素で、稜線が適切に与えられたデッサンには明快な立体感が表れます。

稜線は、「平面という制約の中で立体を表現する」という難しい課題を解決する上でとても有用な要素なのです。

とは言っても、「稜線って何?」という人の方が多いと思います。ここでは稜線とは何かと、それがどう立体と関わってくるのかを説明します。

稜線とは

稜線は一般的には山岳用語として使われることの方が多い言葉ですが、デッサンでは面と面の境界線と考えます。それは1本の線で、直線の時もあれば曲線の時もあります。

直線の「稜線」が3本集まって空間を囲めば、1つの面が生じます。この面は3つの頂点が存在する三角形の平面になります(Fig.1)。また、円は曲線の「稜線」でできています。

Fig.1

面がいくつか集まり、それぞれの「稜線」が接し合うことで、複数の面を持った1個の立体を形成します。

例えば、四面体は最も稜線が少ない立体で、稜線の数は6本です。4つの面が互いに接するところで大きく面が変化しますが、その面が大きく変化するところが稜線に当たります(Fig.2)。

Fig.2

また、八面体であれば、面の数が多いので稜線の数も増え、12本になります。このように、向きが異なる面が立体の中に増えれば増えるほど、稜線の数は増えていきます。

同じ向きの面が二つ並んでいる場合、その境界線を稜線とは言いません。例えば、サイコロは12本の稜線がありますが、サイコロを展開した図は6つの面の向きが同じになるため、稜線はないと考えます。

異なる向きを持った面があるということは、それは平面ではなく立体です。つまり、異なる向きを持った面と面の境界線である稜線は、立体を暗示する線なのです。

> 「立体的にデッサンする3つの方法」

稜線の位置が立体の形を決める

先に説明した通り、立体を描くとき、稜線は面の向いている方向が変化したことを示す具体的な指標となります。

つまり、稜線と面は連動しています。すると、面と連動する陰影とも、稜線は結びつきます(Fig.3)。つまり、稜線は立体と陰影とセットで考える概念です。

Fig.3-a
Fig.3-b

そのため、立体をデッサンするときに稜線の位置が適切でないと、立体の形も陰影も適切でなくなってしまいます(Fig.4)。もし立体や面が歪んで見えたり、陰影が始まるラインに違和感があれば、稜線の位置がおかしいと言えます。

Fig.4

この場合は、もう一度稜線の位置を計測して引きなおしましょう。

重要な稜線を選んで描く

実際にデッサンするモチーフは、幾何学形よりも複雑で有機的な形をしており、面もたくさんあります。そのため、かなり多くの稜線が存在することになります。特に、球体は無数の稜線がびっしり並んでいるので、どの稜線を拾い取ればいいのか悩みどころです。

仮に、見つけたすべての稜線を描いてもいいデッサンにはなりません。無駄の多いデッサンに見えるからです。

デッサンで使う稜線には重要なものと、さほど重要でないものがありますので、重要な稜線を選んで描きましょう。

重要な稜線とは、「急に陰が発生する明暗の境界」や、「互いに接し合う面同士で、その面の向きの差が急なところ」にある稜線です。つまり、他のところと比べて、色や形の変化が急なところにある稜線が重要です。球体のような無数の稜線があり、その面の変化が均一な場合は明暗の変化が大きいところにある稜線を選んで描きます。

また、明暗が大きく変化するところには必ず重要な稜線がありますが、明暗の差がないように見えるところにも重要な稜線はあります。

例えば、2つの面に接している稜線が正面から光で照らされている場合、その稜線はほとんど見えません(Fig.5)。見えなかったとしても、面の向きが大きく変化する境目にある稜線は重要ですので、デッサンで立体的な効果を出したい場合にはそれをうっすら描くこともあります。

Fig.5 人物石膏像の部分

重要ではない稜線とは、面の変化が小さい部分の稜線、中でも一見フラットに見えるような場所にある稜線です。これは多くの場合は省略する方がデッサンとしての明快さを演出しやすくなります。

ただし、細密デッサンや何か特別な意図がある場合などには、そのような稜線も繊細にトーン調整を行ないながら描写することがあります。