テキスト「デッサンでよい構図とはテーマが伝わる構図」で、構図はテーマによって決められるべきだという話をしました。これは構図を考える上で軸となる最も大切なポイントです。
それとは別に、実際の制作では構図に関する多少の知識が必要になります。テーマを伝えるために、構図をどのように考えて扱うのか、というテクニック的な要素です。
このテキストでは、その中でも、構図が鑑賞者に与える心理的な印象、という点についてお話しします。
構図が与える心理的なイメージ
どのような「構図」であれ、それは鑑賞者に対して、明るい、重い、爽やか、不安など、何らかしらの印象を与えます。
例えば一個の円を四角い画面の中に置くしても、それをどこに置くかで受ける印象が変わってきます。
Fig.1の場合は浮遊感や上昇のイメージ、Fig.2の場合は不動や落ち着いたイメージ、Fig.3は沈んだ、疲れている、などと読み取ったり感じたりすることができます。
感じ方には特に正解があるわけではなく、また必ずしも言葉に置き換えられなくてはいけないということもありません。心理とは、言語で考える以前に、生理的に発生してしまうものだからです。
また、生理的な反応だからなのか、正解がないにもかかわらず、多くの人が同じ構図から似たような印象を感じ取ります。
あなたが何を感じているのか意識する
ほとんど無意識に感じ取る構図からの心理的な印象は、意識していないと鑑賞の際に自分で何を感じたのか気づかないままになってしまうこともあります。
しかし、少なくとも描き手であるあなたは、構図から無意識に感じる印象を敏感に感じ取らなくてはいけません。そうでなければ、構図を分析すること、どのような構図がどのような効果を生むのかが勉強できないからです。
それができるようになるための練習として、巨匠などのデッサンを何枚か眺めながら、あまり考え込まずに印象を直感で感じ取る、ということを繰り返し行ってください。そのうちに、あなたは自分が感じたことに気づきやすくなります。
心理的な印象はものの位置と形で変化する
Fig.1〜3では画面内のどの位置に物があるかで印象が変化するのを見ました。そして、画面の印象には位置だけでなく、ものの形も影響します。
例えば、円から線になった場合です。また、線でも、それが定規で引いたような直線かフリーハンドなのかで印象が違います。他には、線はどちらの方向に向かっているかという動き、つまりジェスチャーの違いも、画面の印象を変えます。
構図を作るこれらの要素の組み合わせは無限と思えるほど作ることができます。描き手であるあなたは、この無限の構図の可能性から、最も端的にあなたのテーマを伝える構図を選択しなくてはいけません。
実際に構図を作る
実際に構図を作るには、頭で冷静に考えるよりも、生理的な反応に任せて構図を考える方が有効だと私は考えます。
というのも、無限の可能性がある構図の中からどれがいいかを順番に試すのは現実的ではありません。また、人の生理的な無意識の反応というのはバカにならず、的を得ていることがよくあるからです。
例えば、「怒る」をテーマにして、それ以外は特に何も考えず、ただ自由に、ペンに紙の上に走らせます。こうすると、ただぐちゃぐちゃと引いたその線の筆跡が、案外怒りを連想させる構図になったりするのです。
このような練習をするうちに、構図と心理的印象の表しかた、その関係があなたの中に蓄積されていきます。
具体的な練習方法を以下のテキストで紹介していますので、ぜひやってみてください。
参考と脚注
B・エドワーズ『内なる画家の眼』エルテ出版、1988年
K・ニコライデス『デッサンの道しるべ』エルテ出版、1997年