トーン(色の調子)が変わるだけで画面の印象はずいぶん変わります。つまり、あなたがトーンを自在にコントロールできれば、あなたの描くデッサンの印象も自由にコントロールできるということです。
画面の印象はとても重要です。例えば、あなたが暗闇の中にあるろうそくの火を描こうとする場合、トーンを適切に暗くできなければ、ろうそくの火が暗闇の中にある印象を表現できません。
また、夏の太陽に照らされた公園と、冬の同じ光景の違いをどうトーンで表すのか? これができなければ、季節や温度感を表現することができません。
トーンをコントロールするためには、まずどのようなトーンがどのような印象を与えるかを知ること。加えて、トーンをコントロールする方法を知り、実際にそれを描く訓練をすることが必要です。
トーンの調整は大きく2つで、画面全体のトーンを調整する方法と、コントラストの強弱を調整する方法があります。
1. スーラのデッサンのトーンを調整
ここではスーラ※1のデッサンを使って、トーンが変化すると印象がどのように変わるのかを見ていきましょう。
Fig.1はスーラのデッサンです。このテキストではこのデッサンを基準とし、そのトーンを変化させることで、起こった印象の変化を見ていきたいと思います。
1-1. 画面全体のトーンを暗くする
Fig.2はFig.1のトーンを全体的に暗く加工したものです。
あなたはこのトーンの変化を見て何を感じましたか? 夜、闇、室内の印象を受けたかもしれません。
また、描かれた人物の心情はどうですか? 私には、少しドロドロしたような、あまり良くない印象を受けました。
1-2. 画面全体のトーンを明るくする
Fig.3は先ほどとは逆で、Fig.1のトーンを全体的に明るく変化させたものです。
光の印象が眩しいほどで、明るく、開放的なイメージに思えます。Fig.2とは、同じモチーフを描いているとは思えないほど印象が異なります。
1-3. コントラストを強くする
コントラストを強くしたのがFig.4です。コントラストは対比・対照という意味で、コントラストを強くした=色の差を大きくした、ということになります。
つまり、色の濃いところはより濃く、薄いところはより薄く変化しています。Fig.1に比べて、手前の人物は暗くなり、上の光はより明るくなっています。
そして、手前の人物の存在感が増し、立体感が強くなったように感じます。
画面全体の印象としては、コントラストを強くすると、力強く明快になり、第一印象で目を引きやすくなります。
1-4. コントラストを弱くする
Fig.5はFig.1のコントラストを弱くしたものです。Fig.1に比べて色の幅が狭くなっているのがわかると思います。
デッサン全体は淡い印象に変わり、少し儚く、繊細な印象です。立体感も弱まり、より平面的に感じます。
2. まとめ
トーンを全体的に明るくしたり、暗くしたりすると、デッサンの全体的な印象や情景が変わります。
これに対して、コントラストを変化させた場合は、全体の印象だけでなく、モチーフの存在感や立体感などが変化します。
つまり、モチーフ同士で強弱をつけたい場合、例えば、目立たせたいモチーフがある場合や、距離を強調したい場合などは、コントラストを調整すると効果的だと言えます。
また、今回の加工した画像を比較してみて、どの画像が四季のどれに近いか? 温度感はどれぐらいか? などいろいろ考えてみて、あなたのデッサンに生かす方法を見つけてください。
トーンをコントロールする基礎的な訓練は以下をご覧ください。
参考と脚注
※1
ジョルジュ・スーラ(フランス:Georges Seurat)
1859─1891