繊細な描写をしたい時、画面から手を浮かせた状態で描こうとすると、どうしても腕の細かいコントロールが難しくなります。この時に使われるのがマールスティック(英:mahlstick,maulstick)です。日本では腕鎮(わんちん)とも呼ばれています。
マールスティックを使うことで、画面に手をつけたりすることなく、細かい描写ができます。
マールスティックとは
マールスティックは細長い棒で、先端に柔らかい皮革、ゴムなどの緩衝材が付いています。描画中は腕を浮かして描くのが基本ですが、マールスティックでその腕を一時的に休めたり、空中で揺れないようにしたりして支えます。
マールスティックという言葉はオランダ語のmaalstokから来ています。マールスティックの使用は16~19世紀の絵画の中からも伺えます。日本では腕鎮(わんちん)と言います。
典型的なマールスティックは上述したようなものですが、人によっては、ただの棒を代用品にするようです。ただ、緩衝材がないと、画面上の描画材や支持体自体を引っ掻いて削ってしまう恐れがあります。緩衝材がない場合は、画面上にマールスティックを置かずに、イーゼル等に引っ掛けたり置いたりするようにしてください。
また、マールスティックは自作も難しくはありません。使い勝手の良いものを自らこしらえるのもひとつの方法です。
マールスティックの使い方
画材を持っている手と逆の手でマールスティックの柄を持ち、緩衝材の付いている先端を画面上の任意の点(画面の中または縁)に置くか、縁に掛けます。
画材を持っている手を柄の上乗せることで、その手が揺動するのを防ぎ、繊細な描写を可能にします。もし手を中に浮かせまま描写すれば、まつ毛や葉脈など細かい描写をする際に手がぶれて、思い通りに描けないかもしれません。
マールスティックを使って描画すれば、画面に触れているのはマールスティックの先端だけになり、画面を汚すのを最小限に留めることができます。加えて、手も汚さずに済みますから、特に、油絵の具で繊細な描写をする際は非常に重宝します。
マールスティックを使用する時に注意することは、マールスティックの先端が画面上で滑らないようにすることです。特に、画用紙は滑りやすいので気をつけてください。画用紙の場合は、先端がゴム製の方が滑りにくいのでよいでしょう。
参考と脚注
カラル・アン・マーリング『ノーマン・ロックウェル』TASCHEN、2007年
wikipedia, Maulstick (閲覧日:2015年9月)
※1
ヨハネス・フェルメール(オランダ:Johannes Vermeer)
1632─1675
※2
エドゥアール・マネ(フランス:Édouard Manet)
1832─1883
※3
ノーマン・ロックウェル(アメリカ:Norman Rockwell)
1894─1978