デッサンで使う画用木炭の持ち方と使い方

トーマス・アンシュッツ※1のデッサン

鉛筆デッサンがそこそこでも、木炭デッサンをすると下手に見える人がよくいます。これは木炭に筆圧をかけすぎておこることが多いです。

筆圧を強くして描いてしまっては、紙の上に乗せたり取ったりするのが簡単だという木炭の特性が発揮されません。なんだか調子が合っていない、ぼそぼそしたデッサンになってしまいます。

木炭はできるだけお尻の方を持ち、ソフトタッチで描くようにしましょう。

木炭はソフトタッチで筆圧は弱く

木炭は削った先端と逆の、お尻の端っこに近いところを持ちます。がっしり持たずに、親指、人差し指、中指の3本の指先で軽く挟んで持ちます。

木炭の先端に近いところを持つと筆圧が強くなりがちです。筆圧を強くして描けば、紙の目に粒子が意図せず入り込み過ぎたり、紙を傷つけ、そこに粒子がはまり込んだりしてしまい、調子をコントロールするのが難しくなります。

調子をコントロールしやすくするために、木炭はソフトタッチで、ゆるっと持って描画していく必要があります。特に親指の力は抜いてください。

濃く乗せたい時は少しだけ強く

基本はソフトタッチで描画を進めていく木炭ですが、時には筆圧を強めることもあります。それは色を濃く乗せたいときです。ただ、強すぎてはいけません。少しだけ力を加える程度です。

筆圧を強くすることで起こるデメリットを考えれば、「ソフトタッチで何度も木炭の粒子を重ね、だんだん黒くしていけばよい」という考えが出てくるかもしれません。

しかし、木炭と言うのは何度も粒子を重ねていくより、一筆で描いて済ませたほうが美しい色が乗る傾向にあります。何度も同じところに粒子をこすりつけると、色が汚くなっていくだけでなく、先においた粒子と後から乗せた粒子がからみ、意図しないマチエールを作ってしまったり、粒子が乗りにくかったりと扱いにくい状態になってしまうためです。

そこで、色を濃く乗せるときだけは、少し筆圧を強くして粒子を紙の上に乗せます。

また、色を濃く乗せるのは制作の中盤以降にします。序盤ではまだ形の修正する可能性が高いからです。筆圧を強くして乗せた木炭は粒子が支持体の目に入り込みやすく、修正が大変になります。

濃いめに乗せられた木炭の粒子(拡大図)

先端を尖らせ、そのエッジで描く

木炭を使うときは木炭を削ってできたエッジ部分(削った面の即辺)を使って、幅広い線を引きます。

先端だけで描くと何度も少しずつ粒子を乗せていくことになり、木炭の色がムラになりやすくなります。また、作業量が多くなるので描画時間も無駄にかかってしまいます。

そのため、木炭の描画はできるだけ無駄な手数を減らし、構築的に進めていかなくてはなりません。鉛筆以上に一筆一筆を選んで扱いましょう。

かといって、あまりに慎重になりすぎて全く描画が進まないと上達が遅れてしまいます。矛盾するようですが、とにかく描いて試してみると言うのも大切です。理屈を知っていれば、数をこなすうちに無駄な手は自然と減っていきます。

マチエールの選択と構築的な描画

「木炭の粒子を紙に乗せただけの状態がもっともマチエールとしての主張が強く、逆に粒子を細かく、紙に刷り込ませるほどに粒子の主張が弱くなる」これが基本的な木炭のマチエールの表情です。

これを実際の描画で使った例として、「対象の中で自分から遠い部分は粒子を擦り込む、逆に近い部分の粒子は刷り込まない」などが考えられます。他には「陰影の部分の粒子を刷り込み、光が当たる部分を刷り込まない」という例もあります。

上述の例は基本的な木炭のマチエールの扱いです。まずはこれを徹底し、できるようになってきたら、巨匠のデッサンなどを分析しながらマチエールの表現を発展させていきます。

マチエールを作るためにはガーゼや手、擦筆などを使い分けていきます。

> デッサンで使う画用木炭用の消し具と使い方

粒子を細かくして紙に刷り込むには、消し具を使って優しく撫でたり、抑えたりします。特にガーゼはもっとも粒子を細かくできる消し具です。

DESSIN LABORATORY『キアロスクーロ画法ノート』より引用

ただ、細かくして紙に刷り込んだ粒子は取り除くのが難しく、無理に取り除こうとすると紙を傷つけます。この問題を避けるためにも、木炭の描画は構築的に進めていく必要があります。

例えば、極端なマチエールは描画の後半で使うことです。極端なマチエールとは、ガーゼで粒子を細かくすること、逆に、木炭の粒子を定着させずに乗せっぱなしにしておくことです。

中盤まではこの両極端な描画を避け、ソフトタッチで木炭の粒子をつけ、その粒子を手を使って適度に木紙に定着させながら描画を進めていきます。

そして形を十分に合わせて色調も概ね整ってきた中盤以降から、ガーゼを使ったり乗せたままの粒子を残したり、といったマチエールを作って仕上げていきます。

参考と脚注

DESSIN LABORATORY『キアロスクーロ画法ノート』2018年

※1
トーマス・ポロック・アンシュッツ(アメリカ:Thomas Pollock Anshutz
1851─1912