陰影のつけ方|範囲を決めて陰影をデッサン

デッサンを始めたばかりの初心者が陰影に対してする質問はどれも似ています。それらを大雑把にまとめると「どう影をつければいいのかわからない」というものです。

このような質問が出てくるのは、陰影についての知識がまだないからです。また、どこから陰影でどこから光なのかが掴めていないからでもあります。

明暗境界線を見つける

陰影と光の境目を、明暗境界線と言います。この明暗境界線を見つけないことには、影をうまくつけることができません。要は、これをきちんと観察できるかどうかが陰影が描けるかどうかの分かれ道となります。

例えば、明暗境界線は立方体ならすぐに見つけることができます。立方体にある12の辺のが、そのまま明暗境界線になるからです。これが、球のように形がゆるかやかに変化するものになると、明暗境界線を見つけるのは難しくなります。

曖昧な明暗境界線

可能であれば、明暗境界線がわかりにくいものの場合は照明を強くしましょう。

照明を強くすれば、それに比例して陰影が強くなります。すると、見えにくかった明暗境界線がくっきりと表れます。

照明をコントロールすればはっきり見える

陰影を描くのに慣れていないうちは照明を利用して、陰影がはっきり見える状態で描くようにします。画塾やデッサン教室だと自分で照明を変えるのが難しいので、自宅で行うのがいいでしょう。

その場合、安価なもので構いませんから、スポットライトを用いるのがオススメです。部屋の照明を消し、描くものと自分の画面だけを照らすようにすれば、はっきりとした明暗境界線が見えてきます。

明暗境界線を見つけるのに慣れてきたら、照明が柔らかな環境でもそれを描くのが以前より簡単になっているはずです。

明暗境界線ははっきりとは見えたりよく見えなかったりしますが、光が当たっているものには必ず存在します。

白黒はっきりさせる

明暗境界線を見つけたら、そこを境に陰影の側を全て黒で塗ります。この時、陰も影も一緒に扱います。陰とはある物体の光が当たっていない部分、影とはある物体に遮られてできる投影のことです。詳しく知りたい方は以下のテキストをご覧ください。

> 陰と影を知ってワンランク上のデッサンへ

陰影の中を一色で塗るというこの方法は、極端ではあります。しかし、これをしっかり行うことによって、描き手が明暗境界線をしっかり観察できたか、見極められたたかということが明らかになります。

明暗境界線で色分けされたリンゴ

これは大きな声で話すのと、小さな声で話すのとではその内容の是非がわかりやすいかどうかと同じです。

小さな声で話すと、そもそも聞こえないので、話の内容があっているのか間違っているのかわかりません。同じ内容を大きな声でしっかり話すと、聞き手が「ここは違うと思うよ」と間違いを指摘することができます。

陰影も、怖がらずにしっかり描いてください。そうすると、不自然な陰影がはっきりとわかります。間違いがわかると「なぜだろう」と反省することができるので、上達が早くなります。

陰影をはっきり描くのは自然の色合いからすれば不自然です。しかし、明暗境界線が適切であれば、鑑賞者はそれを自然な陰影だと解釈します。

明暗強化線付近に肉付けがされているスーラ※1のデッサン

明暗とその中間

デッサンで陰影を考える時は「明」「暗」「その中間色」と言う風に整理して描きます。これまでの段階では「明」と「暗」に分けただけの状態です。

これがしっかりできた上で、次の段階では「中間色」を作っていきます。これはその名前の通りで、明るい部分を白とし、暗い部分を黒とした時にその間に作るグレーの調子のことです。

この中間色の中で、反射光や肉付けを行っていきます。ただし、反射光に関しては大切な注意点があります。それは、反射光は光の側にいるなら明るいグレーに、陰影の中なら暗いグレーで描かなくてはならないということです。

これを考えずに、最も明るい色と暗い色の真ん中に位置する色で反射光を描くと、光と陰影のバランスが崩れて不自然なデッサンになってしまいます。

例えば、陰影の中の反射光が明るくなりすぎると、反射光ではなく別の光源から来た光が当たっているような色に見えます。それを避けるためには反射光を強くしすぎないように、あくまで陰影の中では少し明るい、という程度のグレーにとどめておきます。

また、肉付けは明暗強化線の周りを中心に行います。肉付けとはモデリングともいい、デッサンでは形を付け加えて整えていくことです。

明暗境界線で白黒に分けただけでは、ぱきっとした形になっています。ものは立方体のように急に形が変化するところと、球のようにゆるかやかに形が変化するところとが入り混ざっていることがほとんどです。

形の違いに合わせた肉付け

それを表現するためには、それらを描き分けなくてはいけません。陰影で描き分ける場合は、肉付けの範囲を調整することでそれができます。

例えば、立方体の場合はほとんど肉付けをする必要がありません。それに対して球の場合は、肉付けの範囲を広く取り、グラデーションで明るいところと暗いところをなだらかにつなげます。

このようにして、明暗境界線で分けた白黒を中間色で整え、形の違いを表現していきます。これが陰影の基本的な扱い方です。

参考と脚注

※1
ジョルジュ・スーラ(フランス:Georges Seurat
1859─1891