デッサン初心者が稜線や立体を見るための練習

デッサンで立体的な表現をするには、「稜線(りょうせん)」を観察し、描き出す必要があります。

稜線は立体を表すための基本的な要素で、稜線が適切に与えられたデッサンには明快な立体感が表れます。

このテキストでは重要な稜線、それほど重要ではない稜線、これらの両方を区別せず、とにかく稜線を観察して描く練習をしていきます。

1. 練習の内容

・制限時間:1時間
・目的:立体を観察する力を鍛える
・行動:モチーフの凹凸を端から全て追いかけて描く

テキスト「稜線はデッサンで立体を表すための大切な要素」を読んでからこの練習を行ってください。

> 稜線はデッサンで立体を表すための大切な要素

1-1. 画材の準備

・B3の画用紙
・コンテ、チョーク、パステル、木炭のうちどれか

> 木炭デッサンで使う画用木炭の特性と種類

画用紙を机の上か、カルトンの上に設置します。描いている最中にずれてしまわないように、画鋲かクリップで固定してください。

> デッサン用のカルトン(画板)の特徴と使い方

1-2. モチーフの準備

凹凸がある塊をモチーフとします。例えば人物、石膏像、適当に丸めた何枚かの洋服、ぬいぐるみ、などです。大きく、ボリュームのあるものが描きやすいです。

椅子やテーブルなど、隙間の多いものはこの練習には向きません。

1-3. 手順1

この練習では紙を見ません。あなたの視線はモチーフの立体を追うことだけに集中させてください。これは観察に集中するためです。

まず、あなたが選んだ描画材(仮にコンテとします)の先を、画用紙の上に置きます。そして、あなたの視線はモチーフに向けます。モチーフのどこから観察を始めても構いません。

あなたが視線を向けた位置から、横方向に、モチーフの表面の凹凸を追っていきます(Fig.1)。同時に、視線が動くスピードに合わせてコンテで線を引いていきます。

Fig.1 練り消しゴムをモチーフに見立てています

この時、あなたの視線が凹の部分にきた時は筆圧を強くし、凸の部分にきた時は筆圧を弱くします。結果的に、凹の部分は筆圧が強いので色が濃く、凸の部分は薄くなります。

1-4. 手順2

モチーフの端っこまできたら、あなたの視線がモチーフの裏側を通るのをイメージします。そして裏側を周って、反対側の端っこに出てきます(Fig.1)。裏側を通っている間、線を引くのは休みます。

反対側の端っこまで視線がきたら、そこからまた凹凸を視線で追い、線を引いていきます。ことの時だけは、画用紙を見て線を引き始める位置を確認してもいいでしょう。

そして、また手順1を繰り返します。

1-5. 手順3

あなたがモチーフの上から下まで、横方向に全て観察して描き終えたら、今度は上下の方向に視線を動かしてモチーフの凹凸を描いていきます。(Fig.2)

Fig.2 練り消しゴムをモチーフに見立てています

方法は横方向に動かした時と同じです。

こうして、隅々までモチーフの凹凸を観察できたらこのデッサンは出来上がりです。

Fig.3 鼻の形の石膏像で練習した例

2. なぜコンテや木炭なの?

この練習で指定した描画材は細かい描写がしにくい、かつ濃淡がつけやすいものばかりです。

細かい描写がしにくい描画材を使うことによって、細かすぎる描写を強制的にできないようにしています。これは、あなたにまずは大きな立体感をつかめるようになってほしいからです。

濃淡がつけやすい方がいいのは、凹凸に合わせて線の濃さを変えるためです。

例えば、マジックなど濃淡がつかないものでは、ただ真っ黒なデッサンになるだけです。それだと、出来上がったデッサンの反省がうまくできません。

3. 小さな凹凸は無視してもいい

モチーフの表面の凹凸を視線で追っていきますが、あまりに細かい凹凸は無視して構いません。まずは大きな立体感を観察できるようになりましょう。

それができれば細かい立体も自然と観察できるようになります。

4. モチーフの裏側について

モチーフの裏側を意識するのはとても大切です。なぜなら、立体はあなたから見えない方向にも形を持っており、それも含めて立体だからです。このことが理解できていないと、張りぼてのような立体物を描くことになりかねません。

あなたの想像力が豊かすぎる場合、視線がモチーフの裏側の凹凸を通っている時、その凹凸が実際どんな状態なのかが気になるかもしれません。

その時は実際にモチーフの裏側を見てみましょう。モチーフによっては想像していた凹凸の形と随分違うこともあります。

5. 描いた後の反省

描き終えたら自分のデッサンを振り返って見てください。モチーフの凹凸と見比べて、凹のところが濃く、凸のところは薄く描かれているでしょうか?

もしかしたら、あなたは無意識に光と陰影による濃淡をつけているかもしれません。

その場合は、たとえ凹のところでも、光が当たっていたならそこを薄く描いてしまっているでしょう。

しかし、この練習ではそれは望ましくありません。なぜなら、それはあなたが光と陰影に惑わされて、立体を観察しきれていない証拠だからです。

立体を観察するのは初心者には慣れないことです。当たり前に立体を見ることができるまで、この練習では光と陰影は無視して、凹凸の観察に集中するようにしてください。

参考と脚注

K・ニコライデス『デッサンの道しるべ』エルテ出版、1997年