表現の領域|人物デッサンでデフォルメの練習

対象をデフォルメ(変形、強調)して描く力は、あなたの意図や企画をデッサンで表現する時に必要になります。

また、「力強いデッサンをしたい」「ダイナミックな構成をしたい」時にもデフォルメは有効です。

この練習は、本数を絞ってモデルを描くことで、あなたがモデルをデフォルメして描くしかない状態にします。

1. 練習の内容

・制限時間:30分(1ポーズは1〜5分。それを繰り返す)
・目的:形を正確にデフォルメする力を鍛える
・行動:モデルを少ない本数で描く

テキスト「形をデフォルメしてデッサンの構成を考える」を読んでからこの練習を行ってください。

> 形をデフォルメしてデッサンの構成を考える

1-1. 画材の準備

・スケッチブック、またはA4のコピー紙
・2B以上の濃さの鉛筆、コンテ、チョークのいずれか

> デッサンでよく使われているおすすめの鉛筆

1-2. モチーフの準備

モチーフは人物をオススメします。複雑でフォルム(形、姿勢)が変化する人物は、デフォルメをするのに面白いモチーフになります。

友達や家族にモデルを頼んでみましょう。それが難しい場合は、外に出て、目にとまった人をモデルにします。

それも難しいなら、雑誌や動画の人物を使ってもいいでしょう。

1-3. 手順1

まずはモデルのフォルムを象徴するとあなたが思う線を、1本引いてください。直線でも曲線でも構いません。

この1本は、モデルの体の中を捉えるような線になるでしょう。なぜなら、1本の線で外郭線(シルエットに相当する線)を象徴するのは、私の経験上、無理があるからです。

次に、あなたがモデルのフォルムを象徴していると思う線を、さらに3〜4本加えます。直線でも曲線でも構いません。

これで、数本の線だけで象徴された人物のフォルムができました。

練習の例

1-4. 手順2

あなたが引いた数本の線の中から、そのモデルのフォルムをもっとも明確に表していると感じる一本を強調します。そして、その線はこのデッサンでモデルのフォルムの芯となります。

強調した線は最初に引いた線とは限りません。最初の線が軸になることもあれば、後で引いた数本の線のうちのどれかがモデルの軸をつかんでいた、ということもあるでしょう。

1-5. 手順3

強調した一本の線をモデルの軸として、今度はモデルの輪郭やその他のフォルムを示す線を描きこんでいきます。20本程度が目安です。

この時も、線はできるだけ長く、大きく捉え、細かい描写に走らないようにしてください。

練習の一例

2. なぜ最初から1本の中心軸を描かない?

重要なフォルムを数本引き、その中から中心軸となる1本を選ぶのは、思い込みをせずに、他の可能性も探って欲しいからです。

始めの1本は、もちろん、あなたが「これだ」と思う線を引きます。そこが適当では意味がありません。

加えて、「もっとらしく見える線もあるかもしれない」と考え、さらに観察するという発想を持って欲しいので、このような手順となっています。

3. 描いた後の反省

うまく描けたかどうかを判断する基準は、あなたが感じたモデルのフォルムの特徴がきちんと強調されたものになっているかどうかになります。

出来上がったデッサンは描く人によって様々になり、同じものにはなりません。

できた結果に対して、「これで良いのか?」と感じる場合は、頭で考えるよりも違うアプローチで何度も描いてみてください。そうして自分が感じたものと描いたものを近づけていきましょう。

4. 長時間のデッサンでも行うといい

長時間のデッサンをする際も、描き始める前にこの練習と同じことをするのが理想です。

最初の数分で、スケッチブックにモチーフをデフォルメしたデッサンを行い、それを見えるところに置いておきましょう。

そうすれば、長い時間をかけたデッサンを描き終えるまでの間、最初に捉えたモチーフのフォルムを壊すことなく描画できます。そのため、力強いダイナミックなデッサンも可能になります。

参考と脚注

K・ニコライデス『デッサンの道しるべ』エルテ出版、1997年