初心者がデッサン力を上げるための近道は、描き方の型を知り、それを身につけることです。そうすれば、自分の感性だけを信じて泥臭く練習するよりも、早く、確実に上達します。
とはいえ、オリジナティや個性を尊重する現代では、型を覚えて絵を描くことに対して抵抗があるかもしれません。しかし、師匠から弟子へ、先生から生徒へ、型を通して技術を伝えることは昔から行なわれている有効な技術の学び方です。
そして、型からは先人の技だけでなく、感性も学ぶことができます。
型に凝縮された先人の技
よい型(手本)をとり入れることによって、それを作った人の感性も学ぶことができます。なぜなら、よい手本とされているものはその道の熟練者が作っているため、そこに研ぎ澄まされた感性がたっぷりと詰まっているからです。
つまり、型で習得できるのは手の技術だけではありません。先人の優れた観察の方法、解釈の仕方なども学ぶことができます。
あなたは何の型も知らず、とりあえずデッサンをしていませんか? だとしたら、上達しにくい描き方をしているかもしれません。デッサン力を上げるために何が有効で何がそうでないのか、1人で考えて実践するのはとても遠回りなのです。
西洋のメタファー(比喩)に「巨人の肩の上に立つ」という言葉があります。このメタファーは、大きな巨人(先人が積み上げてきた知識や経験)の肩に乗れば、ずっと遠く(さらに先)まで見渡せる、という意味になります。私たちもこのメタファーのように、デッサン上達のために先人が発見した方法を使って効率よくデッサン力を上げましょう。
型を使うと技術が安定する
型を知り、習得することで、どしっと安定した描画方法を確立できます。型が体に染みつくと、「今日は感覚が鈍いな」「コンディションが悪いな」という日でも、デッサンの水準を下げずに描くことができます。
また、型はスケッチやクロッキーにも役立ちます。スタスタ歩いている対象を描くとき、プロポーション、動き(ジェスチャー)、その個性を全て観察して捉えるのは大変です。プロポーションの型をマスターしておけば、動きや個性の描写に集中できます。
プロとして一定レベルの技術が求められる商業美術の分野では、型がそのまま作家のスタイルになっている例も多くあります。。ミュシャ、ビアズリーはわかりやすい例です。(Fig.1,2)
型をどう応用するかが個性になる
型を覚えると「型通りのデッサンしかできないようになるのでは?」と心配する方もいるでしょう。しかし、これは描き手の応用力で解決できます。例えば、印象派と呼ばれている巨匠たちの中に、アカデミックな型を習った人はたくさんいます。ゴッホやピカソも初期に同じような型を習っています。
つまり、型をマスターすることがつまらない絵を生むことにはなりません。むしろ、型を習得し、それをどう応用するかが作家の個性につながります。
型を応用するためにも、初心者はまず型をしっかりとマスターしましょう。
具体的な型については今後、「デッサンの描き方」というカテゴリーを作って公開していく予定です。
参考と脚注
※1
アルフォンス・ミュシャ(チェコスロバキア:Alfons Maria Mucha)
1860─1939
※2
オーブリー・ヴィンセント・ビアズリー(イギリス:Aubrey Vincent Beardsley)
1872─1898