たくさん描かないとデッサンは上達しない

「デッサンをたくさん描いているのになかなか上達しない」多くの初心者は、そう思いながら自分のデッサン力に悩んでいます。しかし、実はあなたが思っているよりも、もっともっとたくさん描かなくてはデッサンは上手くなりません。

実際、レベルの高い美大に入った人の多くは、かなり多くのデッサンをしていました。

そして、あなたもとんでもない数のデッサンをすれば、デッサン力を上げることができます。

デッサンが上達しない2つの理由

デッサンが上達しない理由は大きく分けて2つあります。1つは描く量が足りていないこと。もう1つは努力の方向が適切でないことです。

あなたは後者について、すでに取り組みを始めています。理論、情報を探してこのサイトを訪れているのがその証拠です。

となれば、問題は前者の「描く量が足りていない」ことです。どれだけ理論を知っていても、体でそれを使いこなすことができなければ、デッサン力は上がりません。

逆に、大量に描いてきた人は、理論を知らなくてもある程度描けるようになります。私がまさにそうです。受験時代、私は理論をほとんど知りませんでしたが、金沢美術工芸大学に合格しました。それは2浪もして、その間ほぼ毎日絵を描いていたからです。

デッサンはどれぐらい描けばいい?

では、大量のデッサンとは具体的にどのぐらいの数だと思いますか?

私の経験と、デッサンをしてきた知人たちの経験を参考にすると、「デッサン力がある」と言われるレベルになるには、数時間以上かけて描くデッサンを、2、3百枚描く必要があります。加えて、スケッチやクロッキーなどの短時間デッサンを、何百枚と描きます。

ただし、あなたの先生や教本の指導力が高くない場合、さらに数百枚のデッサンを追加する必要があります。

「そんなに描かなきゃいけないの!?」と思いましたか?

安心してください。毎日描く習慣をつけることさえできれば、この量は案外達成できます。週に6日、3時間以上かけたデッサンを1日1枚描いたとしたら、9ヶ月で2百枚以上描くことができるからです。

Fig.1 ロックウェル※1「《ソーダ屋さん》を描くノーマン・ロックウェル」

たくさん描かないと伸びない理由

デッサンを大量に描かないと上達しない理由は、デッサンが身体感覚を使う仕事だからです。同じような仕事に、スポーツ、音楽などがあります。これらは、日常生活では鍛えることができないような体の使い方を必要とします。

例えば、スポーツでは人並み以上の体力、瞬発力、ボールなどを正確に操る技術が必要です。それらを習得するために、人一倍の練習がいることはすぐに想像できます。

デッサンもそれと同じです。デッサンをするときはいつもとは違うものの見方をしたり、精度の高い手の扱いが必要です。それを体に染み込ませるために、たくさんの訓練が必要になります。

それもほぼ毎日です。時間が空くと、体は感覚を忘れてしまいます。

デッサンを習慣化する方法

大量に描くためには、長期的にデッサンが継続できるような工夫が必要です。

継続してデッサンをするために、デッサンを自分の習慣にしましょう。自分のライフスタイルの一部にしてしまうのです。そうすれば、自然にデッサンを継続することができます。

デッサンを習慣にするためには、それと他の習慣と交換しましょう。時間には限界がありますから、すでにある習慣の中にぽっと新しい習慣を足すのはたいへんです。そこで、習慣を追加するのではなく、取り替えることで無理なく新しい習慣を取り入れます。

例えば、歯磨き、友達とのメール、テレビを見るなど、あなたが毎日行っているような習慣の中で、しなくても困らない習慣を見つけます。

ここでは、「テレビを見る」という習慣をデッサンをする習慣に変えるとしましょう。

テレビを見るとき、あなたがテレビを見るために座る場所があります。実は、そこに座ることがテレビを見るという習慣のスイッチになっています。テレビを見る代わりにデッサンをしたいので、座る場所を変えることで習慣のスイッチを入れ替えます。

そのためには、イーゼルとデッサン用の椅子、モチーフを置く台を自分の部屋などに常にセットしておいてください。そして、テレビを見る時間がきたら、テレビを見る場所に座らずに、セットされたデッサン用の椅子に腰かけるのです。

そして、そこに腰かけたら、モチーフを準備し、鉛筆などの画材を準備します。まずは毎日、ここまでを習慣にするようにします。

習慣化のために、はじめの目標設定は低くする

「デッサンを毎日3時間する」というような難しい目標の前に、「イーゼルの前の椅子に座ってモチーフを準備する」という簡単な目標をまずは達成してください。

なぜなら、初めからハードルの高いことを習慣にしようとすると、習慣化する前にやめてしまう可能性が高いからです。人には強い怠け心があるため、目標を達成するのがしんどいと思うと嫌になってしまいます。

そのため、まずはデッサンの椅子に座り、モチーフを準備するだけにします。とは言っても、たいていの場合、そこまで準備すれば少しデッサンをやろうという気が起きてくるものです。

これは心理学者のクレペリンが「作業興奮」と名付けたもので、実際に行動を起こせば、次々とやる気が出てくるという人間の心理です。掃除を少しだけするつもりが、いざ始めたら徹底的に掃除してしまった、などがよく見られる例です。

また、習慣にするの他の方法として、教室に通うのも有効です。この場合は、まずその教室に行くという習慣をつけます。

まとめ

デッサンの上達が思わしくない人は、そもそも描く量が足りていないことがほとんどです。デッサンができると言われるレベルになるには数百枚は描く必要があります。

また、描く量が多いと、時間も多くかかります。そのため、長期的な訓練をする覚悟をし、それが継続できるような工夫をしましょう。

具体的には、すでにあなたが行っている習慣の中からなくてもいい習慣を選び、その時間にデッサンをする習慣を差し込みます。その際、はじめは目標のハードルを低めに設定しましょう。怠け心を起こさないために、「これぐらいなら余裕でできる」ということをすることにします。

あとは作業興奮の心理を利用して、デッサンを始めるだけです。

参考と脚注

※1
ノーマン・ロックウェル(アメリカ:Norman Rockwell
1894─1978