現在の日本では、「デッサン(フランス:dessin)」という言葉の意味ははっきりしません。これは日本人が頭に思い浮かべる「デッサン」が、辞書の意味と噛み合っておらず、一人歩きしているためです。そのため、「デッサンをする意味はあるの?」という問いかけとその答えにもズレが生まれます。
簡単に言えば、「デッサン」は主に線で描かれた絵全般を意味する言葉です。もしかしたら、
あなたはこれに違和感を覚えるかもしれません。
このテキストでは、「デッサン」という言葉の本来の意味と、日本人がイメージする「デッサン」のギャップ。これらを比較して明らかにします。
「デッサン」の本来の意味
デッサンは、仏日辞書で「素描」「下絵」と訳されます。ですが、現代のフランスでは、色がついたものも含めて「絵」全般を指すことができるようです。
デッサンの言葉の定義は範囲が広いようです。
次にフランス美術用語を見ます。『フランス美術基本用語』では、「下絵」「素描」「輪郭(線)」「製図」とあります。これらは主に線で描かれるものです。
日本での「デッサン」のイメージ
私の経験から、日本で「デッサン」は次のような意味で使われています。
まず、鉛筆や木炭でよくと描き込んだ白黒の絵、という意味です。中でも、美大受験を目指す学生が、試験対策のために行っている絵を指す印象があります。
次に、目の前の実物を見て描く、写実的に描く練習のための絵、という意味。
3つ目は、ものの本質を捉える能力、という意味です。そこから、画家の精神の奥深さを映す、高尚なものという意味にもつながってきます。
最後は、絵を描く基本、基礎という意味です。
つまり、「デッサン」という言葉の意味は?
現代のフランス語、美術用語から考えると、「デッサン」という言葉は広い意味では「絵全般」を指し、狭く見ても線で描くものを意味しています。
それからすると、日本人が頭に思い浮かべる「デッサン」は少し偏っています。製図は目の前のものを見て描くわけではありません。また、細部を描き込むという意味も、基本という意味もありません。辞書では実際に線を残すという物理的な現象を指しているので、本質を捉える、という目に見えないことを扱っているわけでもありません。
「デッサン」に対するこの余分なイメージは、「侍」に例えることができます。「侍」という武士一般、いわば職業名に対して、「強い精神を持つ格の高い人物」という意味をつけ加えている。まさに「デッサン」もそのような状態です。
デッサンは必要?
本来「デッサン」とは様々な「絵・画」を意味します。すると、「デッサンは必要ですか?」というのは「絵を描くことが必要ですか?」となります。当然、絵を描くのがうまくなりたければ、実際に絵を描くことは必須です。
しかし、私の経験から、「デッサンは必要ですか?」という問いには「受験生が描いているようなデッサンができる必要はありますか?」という意味が含まれています。日本人の「デッサン」に対するイメージが原因です。そしてそれならば、答えは「必要ない」となります。
絵を描くために必要なのは、線で輪郭、立体、陰影などを示す力です。これを習得するスタイルは一つではなく、受験生のデッサンスタイルはその中の1つにすぎません。それらの力がつくのであれば他のスタイルでも大丈夫です。
当サイトでは、19世紀のフランスで行われたデッサンの理論なども参考にしています。現代日本のデッサンとはスタイルが違いますが、先に述べた絵を描くために必要なスキルを鍛えることができます。そして、その有益さは過去の巨匠たちが証明済みです。
参考と脚注
山梨俊夫・長門佐季『フランス美術基本用語』大修館書店、1998年
※1
アンリ・マリー・レイモン・ド・トゥルーズ=ロートレック=モンファ(フランス:Henri Marie Raymond de Toulouse-Lautrec-Monfa)
1864─1901
※2
レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン(ネーデルラント連邦共和國:Rembrandt Harmenszoon van Rijn)
1606─1669