デッサンする意味とは?観察力と描写力アップ

ゴッホ※3のデッサン

あたは「デッサンをする意味はあるの?」と疑問に思ったことが一度はあるのではないでしょうか? これに関しては、「デッサン」という言葉の意味するところが広すぎるために、人によって意見が違うことがあります。それが原因で混乱してしまった方もいるでしょう。

しかし、実は単純なことで「デッサンをすることで絵を描く能力が上がる」ということです。具体的には、観察力と描く力、3次元を2次元に置き換えて描く力などがつきます。

広い意味で「デッサン」とは単に「絵・画」のことを言います。その意味からすると、「デッサンをする」というのは「絵を描く」のとイコールです。絵を描く能力は絵を描くことでしか鍛えられません。描くという体験をしなければよりよく描く方法は見えてきません。

1. デッサンをする意味とは?

冒頭で述べましたが、デッサンをする理由は「絵が描けるようになる」ためです。「デッサン」という言葉が意味を多く持ちすぎているために、この当たり前のことが見落とされがちです。「デッサン」という名前の技術や理論があると思われているのかもしれません。

例えば、辞書や用語を調べても「デッサン(仏:dessin)」に基礎という意味はありません。「デッサン」とは広い意味では単に「絵・画」のことを指します。

つまり、絵を描けるようになるために「デッサンをするのが必要だ」というのは、「絵を描くことが必要だ」と言っているのと同じなのです。

早く走れるようになりたいなら、毎日たくさん走ることです。絵が上手くなりたければ絵(デッサン)を毎日たくさん描くことです。より効率良く上手くなるために理論を使いますが、たくさん描くのが大前提です。

たくさん描いた結果、それがあなたの技術になります。手に入れたその技術を使って絵を描くので、結果的にそれがあなたにとっての基礎となります。そのため、「デッサンは基礎」という逆説的な見解が出てくるのでしょう。

ちなみに、「デッサンとは本質を見抜くこと」「デッサンとは心の表れ」というような悟った意見は、その方がデッサンをする中で得た個人的な見解です。他の人には関係がありません。熟達すると自ずと自分なりの見解にたどり着きます。「デッサンとは何であるか?」という哲学的な問いに対する答えには、自力でたどり着くべきです。

ワイズバッシュ※4のデッサン

2. デッサンで磨かれる能力

デッサンを行うと、自然と観察力と描く力がつきます。特に描く力は実践することでしか身につきません。描く訓練を繰り返すと体に描く行為が記憶されるためです。また、描くためにはまず見る必要があるので、観察力が自ずと付いてきます。

2-1. 観察力

描けば描くほど、観察力は鍛えられます。

紙の上に何かを描くとき、私たちは必ず対象を見るか、または思い出します。どんな想像上のことでも、全く見たことがないものを私たちは描くことはできません。幻想的な想像も、朝日やオーロラ、昔見たアニメの色使いの記憶をつなぎあわせたものであったりします。

そのような対象をいざ描こうとしたとき、鮮明な記憶ではないので、うまう表現できません。そこで、私たちは対象を見て確認することになります。つまり、描こうとすればするほど対象を見る必要が出てくるのです。そしてこれが観察力へとながっていきます。

「描くより見るほうが大切だ」というアドバイスを受けたことがある方は、この話に矛盾を感じるかもしれません。しかし、これはまた別の話です。「描くより見るほうが大切だ」というのは、デッサン中に対象をよく見ずに描いていることを咎める、短期的な視点です。長期的に見てみましょう。デッサンをほとんどしたことがなかった頃と、何百枚も描いた後を比べれば、あなたは驚くほど対象の観察ができるようになっています。

2-2. 描く力

数をこなせば自然と描く力がついてきます。描く力とは、思ったように手が動かせたり、技術を扱える力のことです。特に自由に線を引くというシンプルな技術は、引いた線の数に影響されます。

例えば、7才の子が書く文字はたどたどしいですが、大人になれば同じ文字をすんなりと書くことができます。これは文字を何回も、何回も、繰り返し書いてきたからです。

2-3. 3次元を2次元に変換する力

絵を描く技術の中には奥行きを表現したり、立体的に描く技術があります。これらは3次元の対象をどうやって平面の紙に表現するかを模索した結果生まれた技術です。これらを学ぶことで、奥行きのある私たちの世界を、2次元の紙の上に表現できるようになります。

技術の例は、遠近法、キアロスクーロ(明暗法)、対象を幾何学で捉える画家セザンヌ※1の影響を受けたキュビズム※2、水墨画の近景・中景・遠景、などです。

3. 受験デッサンは必要か?

美術大学の試験に合格するためのデッサンは、絵を描く全ての人に必要なわけではありません。受験のためのデッサンから学ぶことはたくさんありますが、代わりの方法でも、結果的に絵を描く能力が身につけば問題ありません。

実は、美術予備校に通う最大の利点は、とにかくたくさん描かされることなのです。浪人生であれば、デッサンを毎日6時間以上している方もいます。それだけ描けば、少し不器用で容量が悪くても、絵は描けるようになります。つまり、たとえ独学でも彼らと同じ量のデッサンを行えば、絵はずいぶん上手くります。

4. まとめ

デッサン(絵)をすればするほど絵を描く力は上達します。また、実際に描くことでしかわからないこともあります。

そのため、絵の上達にはたくさんデッサン(絵)を描くことは避けては通れません。知識で早く走る方法を知っていても、実際に走らなけば足が早くならないのと同じことです。絵を描くのがうまくなりたい方は、たくさんデッサンをしてください。

参考と脚注

アラン『芸術の体系』光文社、2008年

山梨俊夫・長門佐季『フランス美術基本用語』大修館書店、1998年

> Glosbe『dessin』(閲覧日:2017年8月)

※1
ポール・セザンヌ(フランス:Paul Cézanne
1839─1906

※2
ピカソとブラックによって生み出されたスタイル。視点を1つに固定する一点透視図法と違い、複数の視点から見た対象を画面内で再統合する。

※3
フィンセント・ウィレム・ファン・ゴッホ(オランダ:Vincent Willem van Gogh
1853─1890

※4
クロード・ワイズバッシュ(フランス:Claude Weisbuch
1927─2014