デッサンでは「目を細めて見なさい」とアドバイスされることがしばしばあります。目を細めて見ると色の濃淡の違いがわかりやすい、大まかな形が見やすくなる、というのが理由です。
実際に、私もデッサンの最中はよく目を細めます。そうすることで対象の輪郭と色がぼんやりと抽象化され、全体のバランスを確認しやすくなるからです。
タイミングが正しければ、目を細めて対象を見ることで描くための観察がうまくいきます。目を細めて何を確認するのかを知り、有効活用していきましょう。
目を細める目的
目を細めて対象を見る目的は、対象の輪郭や色をぼんやりと大まかに見るためです。対象全体を、具体的で細かい色や形ではなく、抽象化された大雑把な色や形として見ることを可能にします。
そうすることによって、個々にあるモチーフをひとかたまりのものとして見たり、背景も含めた濃淡のバランスを見たりすることがたやすくなります。すると、全体感をつかんだり画面の絵作りが行いやすくなったりするのです。
Fig.1は普通に目を開けた時に見えるモチーフの状態です。対してFig.2は、目を細めた時に見えるモチーフの見え方に近くなるように加工した画像です。
Fig.2の方がぼんやりとして見え、色数は少なく、コントラストは強く見えます。この状態の方が画面全体のバルールを観察しやすく、大まかな画面構成を考える時にも便利です。
逆にずっと目を細めずに見ていると、細かい形や色が際限なく目に入ってきます。それをいちいち画面に再現していると、部分と部分をつなぎ合わせたようなバラバラとした、まとまりのないデッサンになりがちです。
目を細めて対象を見ることで、画面内の大きな形と色の構成を見れるようになります。結果的に、バルールや画面構成にも意識が向けられていくでしょう。
目を細めて大まかな形を見る
目を細めて大まかな形を見るときは、あまり細かい形を拾わないようにします。
細かい形を拾ってしまうと、目を細めて見た時の大まかな対象の印象がなくなってしまいがちです。目を細めて見るのは対象の全体像を捉えるためですから、あくまで大きな形を見てください。
具体的にはFig.3のように捉えます。ぼやっとした形をぼやぼやと自由曲線で描くのではなく、単純にデフォルメして捉えます。デフォルメは細かい形にとらわれると行いにくいので、輪郭がぼんやり見えている時の方が行いやすいです。
これは画家のリズ・スティールが『建物を描く』の中で有効な方法だとして触れています。
このように、目を細めて焦点をぼかすことで細かい形を見えないようにし、大まかな形を大胆にデフォルメして画面全体の形のバランスや配置を見ていきましょう。
色の濃淡を大雑把に捉える
形だけでなく、色の濃淡を美しく画面に反映させる時にも目を細めるのは有効です。細かい色を見えなくし、3、4色の大まかな色に分けて対象を捉えることで、画面の中に統一された色の変化とルールを見つけることができます。
構成の時に色数を抑えると、美しい画面構成に仕上がる傾向があります。細かく繊細な色の移り変わりは、その大きな色の中で微調整するのです。
あなたが描いたデッサンも、目をしっかり開けた時には色数がたくさんあると思います。ただし、そのデッサンを目を細めて見た時には、対象を目を細めて見る時のような、少なくまとまった色数に見えるように濃淡をコントロールする のが理想です。
Fig.4はヴァージニア・ハインによる風景スケッチです。色の濃淡で山の全体感を見事に捉えています。実際の風景は細かい木や葉の色、雲の色で溢れかえっています。絵にするときは、それをそのまま描くより、ある程度単純にした方が美しくなる傾向があります。
まずはこのように目を細めてモチーフが持つ大まかな色の濃淡のバランスやリズムを捉えましょう。そしてその大まかな色の構成を壊さずに、その中の細かい色数を増やしていくのです。
そうして、モチーフが持つ全体感を画面の中に再現していきます。
ずっと目を細めているわけではない
目を細めて対象を見ることは頻繁にありますが、ずっとそうしてデッサンをしているわけではありません。時間でいえば、普通に目を開けて描いている時間の方が圧倒的に長いです。
目を細めて見るのは対象、またはデッサンの全体性を確認したいときです。それ以外のときは、目を細めると細部の観察ができないので普通に目を開けています。
デッサンも、目を普通に開けているときには細部が見え、目を細めたときには対象をそうして見た時同じような形と色の印象になるように、バルールを調整します。
目を細める目的は対象を抽象化して全体を把握する時です。それをしっかり自覚して、適切な場面で目を細めて観察、確認を行ってください。