一般的に、輪郭という言葉の意味は「ものの形および縁」といった程度の意味合いです。「縁取りとしての線」というようなニュアンスになります。
しかし、輪郭線は状況に応じて主に3つの用法が考えられます。それは「観念を表す線」「外郭線」「立体のピークを表す線」です。
日常的には3つの線すべてが混同され、中でも「観念を表す線」「外郭線」がよく使われています。そして、デッサンにおける輪郭線に関しては概ね「立体のピークを表す線」を使います。
そのため、デッサンをする人はそれぞれの輪郭線の違いを知り、特に「立体のピークを表す線」を使えるようになる必要があります。
観念を表す線
「観念を表す線」は、一般的にイメージされる輪郭線のことです。
例えば、幼児が描く親の顔が典型例です。彼らは象徴的で単純な線を使って目を描きます。まぶたの上と下のライン、瞳の外形、本数を省略したまつげなどです(Fig.1)。
「観念を表す線」をさらに細かく描き、それに「立体のピークを表す線」を加えたものがイラストレーションや漫画の世界で多く見られます。
外郭線
「外郭線」は、シルエットの様なものです。
例えば、人物ならその外形とそれ以外のものを区切る線になります。それは人物をぐるっと囲んだ外形と、その周りの空間の境界線です(Fig.2)。
影絵ではシルエットを使って対象を見事に表現しています。
立体のピークを表す線
「立体のピークを表す線」、これは一般的には全くと言っていいほど知されていない線の概念ですが、デッサンをする人にとっては最も馴染み深くなる輪郭線です。
Fig.3を見てください。石膏像の顔に黒いテープが貼ってあります。上の画像から下の画像へと順に見ていくと、黒いテープがどんどん奥へ回り込み、最終的には一本の輪郭線になります。
この一本の輪郭線をただの「観念を表す線」や「外郭線」として捉えると、その形をただ平面的に表すだけになります。 例えば、見かけ上、3番目の画像の線bcは1番上の画像の線bcの3分の1の長さに見えるので、実際に3分の1の長さの線として扱います。
しかし、これを「立体のピークを表す線」として捉えた場合は、1番目と3番目の線bcはどちらも同じ長さだと考えます。どういうことかというと、3番目の線bcは見かけ上の3倍の長さがあり、それが奥に向かっている、として、実際にそれを表すのです。
そうすると、実際に引く線にも変化が出ます。「線の強弱はどうつけるか?」「線をどこかで切る(一旦鉛筆を紙から離す)べきか?」という発想が出てきます。そして、それらを意識することで線が立体を暗示するようになります。
このように、「立体のピークを表す線」は立体を前提とした輪郭線です。この線は、立体が回り込んで見えなくなる瞬間を表した輪郭線のすべてを指します。
基本は「立体のピークを表す線」を使う
これら3つの線のうち、デッサンで問題になるのはほとんどの場合「立体のピークを表す線」です。例えば、気軽に大まかなスケッチをするとき、モチーフのかたちを計測する時に引くアタリ、細かく描写するときなど、色々な場面でこの線は登場します。
基本的には「立体のピークを表す線」を使ってデッサンすると考えてください。これに対し「観念を表す線」はデッサンではほぼ使われません。
「外郭線」については構図を検討するときと、かたちを正確に計測するときなど、限定的に使うことができます。
「外郭線」の使い道
構図を考えるときは、立体云々よりも個々のモチーフと背景空間との間合いが主な問題になります。そのため、情報の多い「立体のピークを表す線」よりも、よりシンプルな「外郭線」を使って構図を判断することが多くなります。
また、モチーフの形を描写するとき、先入観でモチーフを観察するのを避けるのにも「外郭線」を使うことができます。
例えば、目を描く場合は「黒目がある」「まぶたがある」「居待月のようなシルエットをしている」など、感情移入をしたり、過去の経験に基づいたりといった心的な影響を受けて、客観的な観察ができないことがあります。
これを避けるために、「目のシルエット」ではなく「目と眉毛の間のシルエット」「目頭と鼻の間のシルエット」「目下と頬の間のシルエット」、というふうにモチーフを見ます。そうすることで先入観を取り除き、より客観的にモチーフの形を描写することができます。