デッサンでは、「ここの線の長さに対してあちらの線の長さは?」「この直線の角度に対してあちらの直線の角度はどれぐらい傾いているか?」というふうに、線をガイドにして描画を進めていきます。
そのため、思った通りの長さや角度の線を不自由なく引くことが、デッサンで必要な基本技術になります。
デッサン初心者は線を自由に引けない
自転車に乗れる人は多いですが、一輪車に乗れる人は少ないと思います。一輪車に乗れる人が少ない理由は、その難しさに加えて実際に乗る訓練をした人があまりいないからでしょう。
デッサンに関しても同じようなことが言えます。デッサンをするときはA4よりもずっと大きい画面に、肘をつけずに腕を浮かせて描くことが多いのですが、普段の生活でそんな描き方をする人はあまりいません。
そのため、初めて一輪車に乗る人がうまく乗れないように、デッサンを始めて間もない人は、腕を浮かせた状態で自由に線を引くことができません。せいぜい、書道をやっていた人がある程度できる、というところです。
画手本の模写が線を引く訓練になる
自由に線を引けない初心者がやるべきことは単純で、様々なタイプの線を引く訓練をたくさんすることです。これは頭で理解するよりも体に覚えさせることですから、量をこなす必要があります。
まだアカデミックな描写が盛んだった19世紀のフランスでは、初心者向けの画手本の中に直線や曲線を利用したものがありました。(Fig.1)
『シャルル・バルグのドローイグコース』※2として現代に翻訳出版されたこの教本には、197枚の画手本が載っています。これを1枚ずつ模写したなら、197枚のデッサンをしたことになります。経験的に言えば、線をきちんと扱えるようになるには、最低でもそれぐらいの枚数は描く必要があります。
このような資料から、当時の私設アトリエでは模写を行うことが奨励され、それを通してデッサンの具体的な様式や描き方などについて学んでいたことが伺えます。
大まかな形とその印象を正確に模写するためには、できるだけ画手本の線と同質の線を引く必要があります。つまり、それらを模写すること自体が、描き方を学ぶと同時に線を自由に引くための訓練となっていたのでしょう。
デッサンの基礎力を上げたい人は、ぜひこの本を使って模写をしてください。
参考と脚注
Gerald M.Ackerman, Charles Bargue: Drawing Course, Art Creation Realisation, 2011
※1
パブロ・ピカソ(スペイン:Pablo Picasso)
1881─1973
※2
ジェラルド・アッカーマン『シャルル・バルグのドローイングコース』ボーンデジタル、2017年