デッサンで服を描くコツはルールを知ること

美術の分野で、衣服の襞(ひだ)・衣文(えもん)のことをドラペリー(英:dorapery,ドイツ:draperie,フランス:draperie)と言います。服や布、そしてそれにできるドラペリーはとても身近で、描く機会が多いものです。

ドラペリーにはそれが出来るルールがあります。それを抑えておくと自然なドラペリーが描けるようになります。

ダ・ヴィンチ※1の素描

ドラペリーができるルール

「布が支えられているところを中心軸として、放射状に広がる」というのがドラペリーができるルールです。

例えば、1m四方の布を床の上に置きます。その布の一箇所を手でつまんで持ち上げた場合、そのつままれた部分が支え・中心軸になります。

人物が着ている衣服の場合、座っている人物の膝に接している部分が中心軸となり、そこから放射線状にドラペリーができます。ドラペリーはひとつの布に複数見られることもあります。人物はそれ自体の形が複雑なため、無数の中心軸ができます。

支えられているところを中心点ではなく中心軸と呼んだのは、布を支えるところが点とは限らないからです。例えば、腕を地面と水平にしているときなどは、腕を「軸」としてドラペリーが生まれます。腕のどこかに中心の点が出来るのではなく、腕全体が軸として中心になります。

中心軸が2つになる場合は、1つの中心軸からできたドラペリーともう1つの中心軸からできたドラペリーが途中で出会い、繋がります。

また、ドラペリーは布の質感によって細かい形のでき方に差がありますが、基本的なルールは変わりません。

ルールを知ることは対象を知ること

目の前の現象のルールを知ることは、その対象をより知ることです。そのため、その対象をより描けるようになります。

目の前の現象を自然に見えるように再現することは、現象のルールに従っていることで可能になります。逆に、目の前の対象が自然に描けていない場合は、対象のルールに逆らっている可能性があります。

また、現象のルールを知っていると、目の前の現象が少し変化しても、問題なく描き続けることができます。

少し想像してみてください。あなたは着衣の人物モデルを描こうとしています。しかし、描いている最中にモデルのドラペリーが何らかの理由で崩れ、形が変わってしまいました。

ドラペリーのルールを知らずにただ目の前のドラペリーを写していたなら、もう目の前にあるドラペリーを正確に描くことができなくなってしまいます。しかし、ドラペリーのルールを知っっていれば、ドラペリーが変化してしまった後でも描くことができます。

ルールに従えば自然に見える

デッサンの中のドラペリーが不自然に見える理由は、「実際のドラペリーと瓜二つでない」「ドラペリーの位置が数センチずれている」からではありません。現実のドラペリーは変化しますが、変化した後のドラペリーがドラペリーとして不自然だ、ということはありえません。

つまり、デッサンの中でもそのルールに従っていれば自然なドラペリーの形になるはずです。

自然に見える・感じるようなデッサンを描くためには、対象を写真で写したように寸分の狂いもなく描くことよりも、対象のルールを知り、そに従って描くことの方が重要です。

対象のルールを見つける方法は二通りあります。一つは今回のテキストを読んだように、誰かからそのルールを教わること。もう一つは、対象を良く観察、分析することでそのルールを発見
することです。

ドラペリーができるルールを念頭におきながら、巨匠のデッサンを見て分析してみてください。複雑に感じていたドラペリーに、一定のルールを見ることができるはずです。また、色のつけ方については以下のテキストも参考にしてください。

> 「ドラペリーをシンプルにデッサンする練習」

参考と脚注

K・ニコライデス『デッサンの道しるべ』エルテ出版、1997年

※1
レオナルド・ダ・ヴィンチ(イタリア:Leonardo da Vinci
1452─1519