それなりに描き込んでいるのに、なんだか様にならないなぁと感じたりしませんか?個々の描写はやってるつもりなんだけど、魅力的なデッサンにならない。これは画面内の全体感を意識して作ることで解決できます。
全体感を意識して描くことで、画面内での心地よい形と色のバランスを作ることが出来るます。魅力的なデッサンを描くには、個々のものを描きこむ能力よりも、むしろこの全体感を意識した絵作りの方が大切になります。
そのため、画面内にある形や色の全体的なバランスを常に意識してデッサンするようにしましょう。
大まかな形として捉える
全体感を意識してデッサンするためには、それぞれのモチーフを同じルールの元に変換して観る必要があります。この作業は、分数の計算がしやすいように分母の数を揃えてから計算するようなものです。
まずはモチーフの形に注意を向けてみましょう。モチーフが何であるか(グラス、りんごなど)ということを一旦忘れ、それがどんな形なのか、どのようなシルエットをしているのか。それは隣のモチーフと比べてどのぐらいの大きさなのか、シルエットの傾きは垂直線に対していどのぐらいか、など、それだけに注意を向けます。
すべてのモチーフを、具体的なものではなく抽象的なシルエットに置き換える。そうすると、それぞれ別のものと認識していたモチーフたちが、形という同じ分母で統一されます。すると、形のバランス、配置と言う見方で画面内の全体性を捉えることができます。
なぜそんなことをするのかといえば、画面の中の世界は画面の中でバランスが取る必要があるからです。私たちが実際のモチーフを写実的に描くとき、モチーフ同士の距離感や光の景色など、「場」の状態も画面の中で再現しようとします。そしてそれをするためには、一つずつモチーフを見てそれを順番に画面に描いていく、という方法は不適切です。
「場」の全体感を画面の中に持ち込むためには、モチーフ全体で共通するルールを画面内に持ってこなくてはいけません。そのため、形という、描くモチーフに共通しているもの同士を比較し、それを画面の中に再現します。
例えば、Fig.1〜3を見てください。Fig.1はモチーフです。カメラの位置と私の視点の位置がだいたい同じようになるように撮影しました。
Fig.2はモチーフであるグラスを一つずつ見て描いたものです。これに対してFig.3は、二つのグラスの形を比較しながら同時に描き進めていきました。
グラスの口のシルエットの比較、グラスの底の形の比較など、似た形を探してそれらを比べながら、右のグラス、左のグラス、とほぼ交互に手を入れています。
Fig.2も3も、スケッチの時間はわずか5分ほどですが、デッサンの雰囲気にずいぶん違いが出ています。そしてこの違いは、描き進めれば進めるほど大きな差となっていきます。
このような見方、観察の仕方については『風景を描く』(ヴァージニア・ハイン著)という本の中でも触れられています。全体を観察するには大まかな形(本の中ではシェイプ)を見ることが大事だと触れられています。
大まかな形で捉えるこの見方は絵作りにたいへん有効で、実際に私もデッサン中はこのような見方をよくします。
全体感のあるデッサンをするためにはモチーフを個別にではなく、形という共通点にフォーカスし、その全体の関係、リズム、バランスで見るようにします。そして画面内にそのバランスなどを再現していきます。
モチーフを一つずつ見てそれを画面に再現していくと全体感は損なわれることがほとんどです。
陰影にフォーカスして捉える
全体感を出すために見るのは形だけではありません。陰影も使います。形と同様、陰影もモチーフの種類に関係なく共通する要素です。
陰影を大まかに2色、ないしは3色に解釈し、そのリズムや濃さなどを比較していくと、画面内で全体感が出しやすくなります。
陰影があるかないかだけで、デッサンの印象は大きく変わります。そのため、形に加えてとても重要な見方となります。
また、描写を進めるにはシルエット的な形だけでなく、陰影を利用した立体の描きこみを行うことがほとんどです。形に加えて、それぞれ別の存在であるモチーフたちを陰影で統一し、より魅力的な絵作りを行っていきます。
Fig.4は陰影にフォーカスして絵画を模写したものです。白と黒のリズムが絵作りの重要な要素になっているのがわかると思います。大して描きこんでいませんが、絵としての面白さがあります。
私も経験したことがありますが、個別にモチーフを描写しただけではこのような絵作りの効果は生まれず、ただ描写しただけのデッサンになってしまいうことがほとんどです。
陰影も形同様、すべてのモチーフに共通して存在するルールです。モチーフを個別のものではなく、共通するルールに置き換えて描写すれば、その共通性から全体感ができます。
そしてもっとも基本的な共通のルールは形と陰影です。形と陰影にフォーカスし、モチーフ一個ずつではなく、全体的に少しずつ手を加えていきましょう。これで絵としての魅力がでてきます。