DESSIN LABORATORY デッサンがうまくなるための練習法と観察のコツ
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ジェスチャーはリアリティあるデッサンのコツ

ターナーの絵画
コルヴィッツの版画

(上)J・M・W・ターナー※1
「吹雪─港の入り口の沖合の浅いところで信号を出し、水深を測りながら進む蒸気船。作者はエーリエル号がハリッジを出た夜の嵐の中にいた」1842
(下)ケーテ・コルヴィッツ※2
「蜂起 連作『農民戦争』第5葉」1902/03

リアリティのある、対象の存在感を感じるデッサンを描くためには、対象のジェスチャーをしっかりと掴みましょう。

ここでいうジェスチャーとは一般的な身振り手振りという意味とは少し異なります。デッサンでいうジェスチャーとは対象の軸であり、形を決定する動機でもあります。これを捉えることで対象の全体性をつかむことができるようになります。

「君のデッサンはかたい」「対象のらしさが出ていない」というような批評をされたことのある人は、このジェスチャーをしっかり観察して捉えることを意識してみてください。

もくじ
▪  デッサンでのジェスチャーとは何か
▪  ジェスチャーの例
▪  ジェスチャーは植物や物にもある
▪  ジェスチャーはリアリティと関係する

デッサンでのジェスチャーとは何か

一般的なジェスチャーの意味は身振り・手振りのことです。

デッサンでいうジェスチャーは、単なる身振り・手振りを超えて、それらの動機・理由のことを言います。この「ジェスチャー」という言葉はK・ニコライデスという教育者がその著書※3で使っていたものです。

ジェスチャーは対象の外形を決定しています。つまり、対象の外形の軸になります。そのため、対象のジェスチャーを捉えることができれば、それを再現する際に統一感・一体感を表すことができます。

このジェスチャーとは感覚的に掴む類いのものです。その正体はまるで風のようで、そこにあるはずなのに実体としては掴めません。

そのため、対象の存在感を決定しているジェスチャーを掴むためには、ジェスチャーによって現れた外形からそれを感じ取ることが必要になります。

ジェスチャーの例

デッサンで観察すべきジェスチャーの例をいくつか挙げましょう。ジェスチャーは理屈で考えるよりも、実際に体験したほうが分かりやすいものです。

まずは人物のジェスチャーについて考えてみます。想像してください。あなたの目の前に、足を組んで椅子に座っている人がいます。

その人物はなぜ足を組んで座っているのでしょうか? 寒い? イライラしている? もしかしたら足を組んで固定すると落ち着くのかもしれません。ではその人はどんな雰囲気で座っていますか? リラックスして力を抜いている? こわばっている? 重心は前ですか? それとも後ろ? じっくり時間をとって、それを感じてみてください。

心の有り様は体の動きや状態を方向付けます。人物のジェスチャーを観察するとは、そういった心の有り様を外観から感じ取ることです。

想像では少し難しかったかもしれません。今度は実際の人物を見て、ジェスチャーを観察してみてください。想像よりも簡単にジェスチャーを感じることができます。

ジェスチャーは植物や物にもある

ジェスチャーがあるのは人物だけではありません。植物、道具、石、すべてのものにジェスチャーはあります。ジェスチャーは対象の軸であり、目に見えないそれをジェスチャーという言葉で表しています。

植物のジェスチャーを観察してみましょう。なぜ植物はしっかりと土の中に根を張っているのか? なぜ茎は上に行くほど細いのか? …仮に、その植物のジェスチャーは上へ上へと伸びることだとしましょう。その場合、上へと向かうために、しっかりとした根と、土台としての太い茎が必要なのです。

また、その植物はどのような雰囲気ですか? ふんわりしているのか、それとも強そうな感じか。それはその植物のどんな外形から感じますか? 葉っぱが丸いから? 色が濃いから?

その植物の全体の雰囲気や統一感を表しているジェスチャーを、外形を手掛かりに感じ取ってみてください。言葉にするのは難しいかもしれません。ジェスチャーは言葉にするよりなんとなく感じる方がずっと簡単です。

では、針のジェスチャーはどうでしょうか? もし、針が上向きにズラリと並べられている道があったら、あなたはその上を歩きますか?

多くの人はその道を避けて別の道を選びます。頭で「針の先端が尖っているから足に刺さって怪我をするかもしれない」と考えるまでもなく、直感でそれを避けると思います。それは、あなたが針のジェスチャーを感じたからです。想像しただけで鳥肌がたった方もいるかもしれません。

針のジェスチャーを言葉にするなら、「穴を開けてそこを貫通する」ことです。

このように、ジェスチャーはあらゆるものから観察することができます。

ダ・ヴィンチによる手の素描

ダ・ヴィンチ※4による手の素描

ジェスチャーはリアリティと関係する

「写真の様な写実的なデッサンができる=リアリティが高い」ではありません。リアリティを表現する場合、外形を写し取っただけでは不十分なのです。

あなたが空や山などの大自然の光景を前にし、感動した時の感覚を思い出してください。

腕のいい写真家が撮った風景写真からは、あなたが感動したものに近い、五感に訴えてくるようなリアリティがあります。彼らは意図的にそれを撮ることが出来ますが、世に溢れているその他ほとんどの写真にはそのようなリアリティはありません。

あなたは大自然の光景を体感した時、どうして感動したのでしょう?

視覚のみが刺激される平凡な写真ではリアリティを感じることができない。だとしたら、あなたはその光景の「見た目だけ」で感動したわけではないはずです。おそらく、その場では、ここでジェスチャーと呼んでいる類のものをあなたが感じたのではないでしょうか?

また、人は体験したことのない対象をありありと描くことはできません。

例えば、あなたは自宅から職場や学校までの道のりと、それを少し上空から俯瞰して見た見取り図を思い描くことができると思います。これはあなたの知っている世界です。

逆に、よく知らない遠くの国の出来事は、自宅から職場までの道のりのように鮮明に思い描くことができません。遠い国での光景、出来事は間違いなく実在していますが、ありありと思い描くことができないため、あなたはその国のリアルを描くことができません。

つまり、あなたがリアリティを持って表現できるのはあなたが体験した世界だけです。写真や資料を通して知っているだけの世界や対象を描いても、人に感動を与えることはないと思います。描き手が知識だけで描いたものは、鑑賞者にも知識として、資料としてしか伝わらないからです。

針山の道を避けようとした時に感じるような、他人が近づいてきた時に感じるような、対象が持つジェスチャーを表現する。そうすることで、作品にリアリティを持たせることができます。

参考と脚注

ミヒャエル・ボッケミュール『ターナー』TASCHEN、2002年
Carl zigrosser, PRINTS AND DRAWINGS OF KÄTHE KOLLWITS, Dover Publications, 1969

※1
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(イギリス:Joseph Mallord William Turner
1775─1851
※2
ケーテ・シュミット・コルヴィッツ(ドイツ:Käthe Schmidt Kollwitz
1867─1945
※3
K・ニコライデス『デッサンの道しるべ』エルテ出版、1997年


レオナルド・ダ・ヴィンチ(イタリア:Leonardo da Vinci
1452─1519

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