面取りはデッサンで対象を理解するコツの1つ

「面取り」とは対象を単純化する方法です。目立つ稜線を手掛かりに、緩やかに形が変化していく対象を、面の集合物として大胆に解釈します。

> 「稜線はデッサンで立体を表すための大切な要素」

面取りをする理由は、単純化することで対象をきちんと理解して捉えられるようすることです。そういうと、「対象を単純化したら、理解どころか別物になってしまうのではないか?」と思うかもしれません。

確かに、単純化すると、見た目はそっくり同じにはなりません。ですが、対象を理解するということは、ただ見た目そっくりに描くこととは異なります。

面取りの例 『解构 素描 石膏头像』表紙より引用

1. 理解することはただのコピーではない

例えば習字をするとき、コピー機で複写したように形をそっくり写し取ることがよい字とは限りません。どこで筆を止め、どこではね、どこで払うのか、線を引く速さの強弱はどうか。こういったことをきちんと読み取り、再現する方がよい字として求められる傾向にあります。

また、ダ・ヴィンチ※1は対象を理解するために、見るだけではなく、科学的なアプローチを使って法則を発見したり、解剖を通して人物の構造を知ろうとしました。

このように、見た目そっくりに描くだけでは対象の理解としては不十分です。対象を理解するためには必ず人の解釈が入ります。そして、解釈をするためには、一度対象を単純化をする必要があるのです。

面取りとは、対象がどのような面の構造をしているのか、陰影がどのようなリズムで変化しているのか、これらの理解を助けてくれる方法です。

また、対象から得られることを全て描くのはほぼ不可能です。そのため、描き手は対象の中から何をピックアップすればそのらしさが表現できるのかを考えます。面取りはそれに有効な手法の中の一つです。

2. 面取りの方法

面取りは次の手順で進めていきます。

  • 大きさ(範囲)
  • 方向
  • 細分化

2-1. 大きさ(範囲)

まず、面の大きさを決定します。これは、基本的に色を手掛かりにします。

対象を細かく見ていけば、無限に色数が見えてきます。ですが、面取りをする時は、似通った色は1つの色として扱います。序盤ではなるべく大胆に、面をできるだけ大きく解釈してみましょう。

この時、色ムラやシミに惑わされないように注意します。

どこで範囲を区切ればいいのか迷ったときには、面の向きが大きく変わったところまでを1つの範囲としましょう。

2-2. 方向

立体物を描くためには3次元的な理解が必要です。

平面的に見れば上下、左右の方向だけですみますが、立体を考えるときには前後方向も取り入れて観察します。3次元的に考えて面がどの方向に向かっているのかを意識してください。

fig.1の面FEMNは、面EDLMと同じ形状をしていますが、面の向いている方向が異なっています。その面の正面がどの方向を向いているのをしっかり把握しましょう。

Fig.1

全く違う方向を向いている面同士を同じ面として扱うと不自然な解釈になります。

2-3. 形

大きさと方向がわかったら、その面に輪郭を与えます。輪郭は淡く、薄い線で引いてください。面取りをした輪郭線が濃すぎると、最後の仕上がりに悪影響を及ぼす可能性があります。

Fig.2は面取りの輪郭線を引いていますが、淡く薄く引いていたため、その線は仕上がりの邪魔になっていません。

Fig.2

2-4. 細分化

大きさ(範囲)、方位、形、これら3つを意識しながら面取りを繰り返して描写を進めていきます。描写を進めるにつれて、面大きさ(範囲)を徐々に小さく細分化していきます。

そして十分対象の印象に近づくまでこれを繰り返します。

Fig.2も最初はもっと少ない面の数から始めました。細分化を進めるうちに、最終的にこのような自然な仕上がりになります。

3. まとめ

面取りは初めからうまくはいかないと思います。要領がわかるにはに慣れが必要なので、何度も試しながら行ってください。

大切なのは、自分なりにで構いませんから、面をしっかり見切ることです。

最終的な仕上がりでは面の輪郭線はほとんど見えなくなりますが、面を見切った上でタッチをぼかすのと、観察自体が曖昧なのとでは結果が全く違います。

面の形を曖昧にしたまま描くと、画面上には曖昧な形の対象が現れてきます。デッサンというのは素直なもので、偶然を除けば、描き手が観察できたことだけがそのまま、画面上に表れてきます。

参考と脚注

郑方平;吴俊峰;葛昭辉『解构 素描 石膏头像』湖北美术出版社、2016年

※1
レオナルド・ダ・ヴィンチ(イタリア:Leonardo da Vinci
1452─1519