今日、カルトンは日本の美術予備校や美術大学で支持体(紙など)の下敷きとして定着しています。たいてい、マルマン社の製品のことを指します。
カルトンは、特にイーゼルと使って描くときに便利な画材です。
カルトンは画板のひとつです。語源はカルトーネ(イタリア:cartone)で、後に、フランス語で厚紙やボール紙を意味するcartonとなり、日本には明治期に輸入されました。
イーゼル制作にカルトンが必要
基本、デッサンをする時はフラットな下敷きが必要です。その中でもカルトンはデッサンするのに適しています。
「机の上に直接紙を置いて描いてもいいのでは?」と思うかもしれません。簡単なアイデアスケッチなどをする場合はそれでも全く問題ありません。しかし、正確に形をとったり、ヴァルールを合わせたりするにに卓上で描くのは向きません。
卓上に紙を置くと、画面全体を真上からではなく、斜め上から俯瞰することになります。すると、あなたから見て紙が奥に傾いているので、画面にパースがかかって見えます。この影響は大きく、出来上がったデッサンを壁などに貼って正面から見ると、上下の比率が狂ったデッサンになる可能性がかなり高いです。
これを避けるには、画面の中心と描き手の視線が必ず直交している状態にします。そのためには斜めに紙を設置できるイーゼルが大変便利です。そしてイーゼルに支持体を立てかけるのためにカルトンが必要になります。
他の画板よりカルトンが使われている理由
カルトンに使われている素材は多くの場合厚紙です。カルトン以外の画板では、木製やプラスチック製のものなど色々あります。あなたにとって使い勝手のよい、お気に入りの画板があればそれを使ってください。
ただ、どれを選べばよいのかわからなかったり、理由もなく家にある画板で代用したりしている方は、以下に示したいくつかの理由から、カルトンを使うことをお勧めします。
1|制作しやすい重さ
カルトンはそれなりの重量があり画板の中では重い方です。そのため、軽いプラスチック製の画板に比べて画面に力を加えても揺れにくく、画板が揺れたり落ちたりするリスクがかなり減ります。一方で、野外スケッチなどの携行にはその重さのために不便です。
2|長く使える耐久性
カルトンはあまり反りません。木製の画板がありますが、これだと制作環境によっては画板自体が反りかえってしまう可能性があります。特に、水性の画材で描画をする際は木板に水が染み込むのでより反りやすくなります。カルトンは多少ハードに使ってもほとんど反らないので、長く使えます。
3|ほどよい硬さ
カルトンはその素材から硬さも調度よく、木製やプラスチック製に比べ若干のクッション性があります。下敷きが硬すぎると、描画する時に下敷きからの反発力が強く、描画材そのものが崩れたり欠けたりします。また、柔らかい描画材は硬い下敷きだと濃淡のコントロールが難しくなります。カルトンは程よい反発力なのでこれらの問題をクリアできます。
カルトンの使い方
カルトンの上に紙などの支持体を置き、クリップなどで留めます。画鋲で留めるのはお勧めしません。画鋲によってカルトンに穴が空き、徐々にカルトンの下敷きとしての機能を低下させるからです。
デッサン時に使用するクリップの色は鏡面加工のシルバーがおすすめです。クリップの存在感があなりなく、画面内の構図やヴァルールを見やすいからです。
また、日本ではあまり見かけませんが、海外ではマスキングテープで紙をカルトンに留める人もいるようです。
カルトンのサイズと種類
2枚1組の開閉式カルトン(ダブル)なら、新しい紙や描き終えた画の収納もできます。カルトンは長く使用していくうちにどうしても汚れてきます。その汚れが新しい紙につかないように、開閉式のカルトンの場合は外側の面だけを下敷き面としましょう。内側の面には新しい紙や、描き終えた作品を挟み込んで保管します。
開閉しない、1枚だけのカルトン(シングル)もあります。これは紙の保管はできませんが、開閉式のものよいり軽くて持ち運びに便利です。
カルトンにはサイズ違いがあります。自分がデッサンする紙のサイズにあったカルトンを準備してください。
カルトンの最大サイズは木炭紙大(650×500mm)で、全判と呼ばれます。それ以上の紙でデッサンする場合は、画用のパネルを使ってください。パネルは木製なので下敷きとしては硬いのですが、紙を余分に重ねて下敷きにすれば問題ありません。
小さいカルトンは中判と言い、B3の紙で描くときにちょうどよい大きさです。マルマン社のカルトンのサイズは上述の2つです。
参考と脚注
山梨俊夫、長門佐季『フランス美術基本用語』大修館書店、1998年
マルマン株式会社ウェブサイト「製品紹介」(閲覧日:2015年9月)