あなたは「ヴァルールが狂っている(合っていない)」と言われたことがありますか?
写実的に描く時に、ヴァルールを合わせることはとても重要です。それさえあっていれば、細部を描き込んでいなくても写実的に見えます。(FIg.1)
しかし、「ヴァルールと言われてもピンとこない」という方が結構いると思います。私もそうでした。言葉の意味は知っていても、扱い方というか、イメージが湧きにくい言葉でした。
このテキストではヴァルールがどんなものか、できるだけイメージしやすいように説明していきます。
ヴァルールの意味
「ヴァルール(フランス:valeur)」は美術分野では色価と訳されます。英語ではvalueとなり、一般的には価値という意味です。
価値とは、どれぐらい役に立つのかという程度を表す言葉です。つまり色価とは、画面内で役に立つ色のことを指していおり、「ヴァルール(色価)が合っていない」というときは、画面内に役に立っていない色がある状態です。
例えば、グラスを描く時にはグラスに映り込んだ周辺のものの色を描きますが、それがきちんとグラスに映り込んでいるように見えれば、ヴァルールは合っています。
逆に、その色がただの色染みや画面の汚れに見えた場合は、ヴァルールが狂っています。
要は、画面内にある色が、表そうとしたものにきちんと見えるか、それがヴァルールが合っているかの判断基準となります。
隣の色が変わると違う色に見える
ヴァルールを合わせるためには画面内でその対象の色に見える必要があると言いましたが、それは実際の対象と全く同じ色である必要はありません。
大切なのは、「どんな色」なのかよりも「どんな色に見えるか」なのです。
Fig.2がよい例です。左右に2つの四角があり、それをつなぐ太い線があります。中側の四角の色は左右とも同じです。しかし、その周りの色が違うと、不思議とそれらが違う色に見えます。
つまり、ヴァルールを合わせる時には、画面内の全ての色のバランスを考える必要があります。
ヴァルールは全体的に進めることで合わせる
もし、あなたが部分的に描写を進めた場合には、Fig.2の例で見たように、先に置いた色が後から置いた色によって違う色に見える恐れがあります。
そうすると、先に置いた色をまた後で調整しなくてはいけません。その調整を最低限に減らし、効率よくヴァルールを合わせるためには、はじめに画面全体の色の配分を考えておきます。
具体的には、モチーフの中で最も暗い色群と、最も明るい色群を探し、その色を画面内で何色にするかを決めます。例えば、鉛筆で描く場合、暗い色は4B、明るい色は2H、などです。
次に、今決めた暗い色と明るい色の真ん中に当たる色を探し、それも画面内に置きます。
あとは同じ要領で、さらにそれらの中間の色を決めていき、大まかな色の配分をします。モチーフにもよりますが、配分する色の目安は5〜9色程度です。
これらを基準の色とすることで、描写をする際に部分的に色を決めていしまうことを避けます。こうして全体的なヴァルールを意識しながらデッサンを進めていきましょう。
まずは簡単なモチーフから
ヴァルールの考え方は上で述べた通りですが、実際に色を比較したり、的確に作ったりできるようになりにはそれなりに訓練が必要です。
例えば、ほんのちょっとした明度の違いで、グラスに映った景色が自然に見えたり、ただの色染みに見えたりします。意外と、派手な色の操作よりも微調整で自然に見えることがあります。
複雑なモチーフでヴァルールの訓練をするのは簡単ではありません。そこで、慣れないうちは白いモチーフや多面体などの幾何学立体、壁にかけた布などシンプルなモチーフを使ってヴァルールを合わせる練習をするのがいいでしょう。
参考と脚注
※1
アンドリュー・ワイエス(アメリカ:Andrew Wyeth)
1917─2009