巨匠の絵から学ぶ基本的な空気遠近法の描き方

ターナー※1「解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号」

空気遠近法をデッサンに取り入れると、奥行き感や空間表現を演出しやすくなります。

空気遠近法を実際に使っている絵を見てみましょう。実例を見ることで、自分が描くときにどのように空気遠近法を取り入れればよいのかイメージしやすくなります。

空気遠近法のルールについては以下のテキストを見てください。

> 空気遠近法の一般的な現象と使いどころ

青色を調節して遠近を表現する

遠くの対象を青色で描いて遠くに見せる場合は、青くするのと同時に色を淡くかすませていきます。青が濃いとコントラストが強くなり、そのせいで少し手前に迫って見えるためです。空気遠近法の効果を最大限に発揮するためには、遠くを青く描くと同時に淡くします。

これは逆に言えば、手前の対象ほど青色が弱くなっていくき、黄色系の色が濃く目立ってくるということになります。

例えばウィリアム・ターナーの絵画で、遠くの海面は青く、手前の海面がほとんど黄系に描かれているものがあります。

ターナー「月光の中、積み込みをする石炭船」

海面を描くとき、私たちは海の固有色である青色を海面全てに使いがちです。しかし、空気遠近法を応用すれば、ターナーのように対象が持っている固有の色にとらわれない大胆な空間演出ができます。

遠くの対象を大気の色に近づける

遠くの対象ほど大気の色に溶け込ませる、大気の色を反射させる。これは大気の色が青色に見えない場合などにも使える手法です。

ただし、黄色など手前に見えやすい色が大気の色になる場合は、他の遠近法(きめ、大きさ、線、コントラストなど)との組み合わせが必要です。これは黄色という色が手前に迫って見える性質を持っているからです。

アントワーヌ=シャントルイユの絵画では、夕暮れ時、輝く橙色の光に遠くの風景が照らされています。大気の色は橙色に描かれています。大気の色が遠くの対象に反射し、大気の色と馴染んでいます。

シャントルイユ※2「日没前の光に照らされるイガマメ畑」

遠くのものを青色にすると不自然なときは青にこだわらず、このように大気の色に近づけるようにします。

白黒で描く場合はコントラストを弱くする

白黒だけで描く場合はコントラストを使った空気遠近法を使います。遠くの対象は明度、彩度ともに大気の色に近づきます。言い換えれば、遠くの風景ほどコントラストが弱くなるというとです。

長谷川等伯の「松林図(右隻)」は、松林が墨一色で描かれています。遠くの松を薄く描くことで、空間と奥行きを演出しています。

長谷川等伯※3「松林図(右隻)」

この作品には背景が描かれていないので、余白、紙の色が大気の色の役割を果たします。

使われている紙の明度が明るいので、遠くの松を淡く薄く描くことで大気(紙)と松の色が近づき、コントラストが弱くなります。逆に黒っぽい紙に描く場合は、遠くのものほど暗い色で描きます。

参考と脚注

ジェームズ J.ギブソン『視覚ワールドの知覚』新曜社、2011年

MAU造形ファイル「空気遠近法」(閲覧日:2017年4月)

※1
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(イギリス:Joseph Mallord William Turner
1775─1851

※2
アントワーヌ=シャントルイユ(フランス:Antoine Chintreuil
1814─1873

※3
長谷川等伯(日本:はせがわとうはく
1539─1610