ジェスチャー、立体、陰影、外形など、デッサンで観察することはいくつもあります。その中の1つに「重さ」があります。これも重要なものですが、しばしば見落とされます。
それどころか、教わらなければ重さを観察するなんて想像もしなかったという方もいるでしょう。
重さは対象を理解する重要な要素の一つです。これを観察することで、表面的な形に惑わされず、対象の中から、対象を表現するのに重要な情報を的確に選ぶことができるようになります。
重さは対象を理解する要素の一つ
重さというのは、目の前のものが何であるかを見極めるのに必要な要素です。
例えば、白い球体があるとします。それが重いか軽いかは素材によっても違いますし、中身が詰まっているか、空洞なのかでも変わってきます。けれど、その球体を見ているだけでは、それらを見極めるのはむずかしいでしょう。
しかし、実際に手にとってみれば、目をつぶっていてもその球体の重さがどれぐらいなのかを身体感覚で掴むことが出来ます。そして、その重さはその球体が何であるか(石膏、木材など)を知るのに不可欠な要素として備わっているのです。
表面的な形に惑わされない
「デッサンは視覚を通して鑑賞者に訴えるものなのだから、重さがわからなくても問題ない」とか、「見た目がそっくりに描ければ良い」という声もあるでしょう。
しかし、重さを観察できる力を育てておくと、目の前にある現象を理解しやすくなります。
例えば、ベッドに横たわる人物で考えてみましょう。その人物の下のシーツには当然シワがあります。シワは、人物の重みがベットに沈み込むことで作り出したものと、単にシーツがよれてできたシワがあります。
その人物の重さを考慮せずに、目に写ったことだけを頼りにしてシワをデッサンしていくのは大変な労力です。その上、人物の重みでできたシワもよれてできたシワも同じように観察されれば、シワはただの記号になってしまいます。そしてそれは、そのシワという目の前の現象への理解が足りない証拠として、画面上に表れてしまいます。
重さの観察をすると、これらを解消することができます。ベットのシワについても、シワの動きや方向性といったそのシワの「ジェスチャー」を重さをヒントに掴むことができるようになってきます。
デッサンでいう「ジェスチャー」とは、単なる身振り・手振りという意味だけでなく、対象の軸、芯のような意味も含んでいます。
例えば、人物の重みでできたシワとよれてできたシワの長さと角度が全く同じだったとしても、重さのジェスチャーを捉えることでそれぞれのシワを見分けることができ、絶対に必要なシワと、省略しても問題ないシワを見分けることができます。
つまり、表面的な形に惑わされなくなるのです。
対象のらしさを失わずに省略表現をする
表面的な形に惑わされずに対象の観察ができるようになると、表現にも影響が出てきます。
多くの場合、デッサンでは対象を省略して描きます。コピー機や写真機のように目に入った情報を全て正確に写し取ることは、丹念に描きこんだデッサンの場合でも稀です。
対象を省略して描くということは、対象がそれらしく見える情報を取捨選択するということです。間違って対象らしさを表す重要な情報は省くわけにはいきません。ここで描き手の観察力が問われてくるのです。
重さを観察する力を持っていれば、シーツのシワの中から人物の重みによってできたシワだけを選び取って表現することができます。そしてそれと関係のないシワは、描き手の任意で省略することも、描き加えることもできます。
参考と脚注
※1
エドガー(エドガール)・ドガ(フランス:Edgar Degas)
1834─1917