人物デッサンのコツは相手になりきること

人物デッサンをうまく描くために、形を合わせたり、自然な肌の色を作ることは大切です。

しかし、それよりも先に生命感やその人らしさを感じさせることが必要です。その人がどんな雰囲気を放っているのか、どんな性格をしているのか、無意識に感じ取っているそれらを表現することが魅力的な人物デッサンのコツです。

テキスト「ジェスチャーはリアリティあるデッサンのコツ」「デッサンで全体感をつかみ、存在感を表すコツ」で紹介したジェスチャー。これを捉えることで、その人の生命感やらしさ、雰囲気といったものをつかみやすくなります。

> 「ジェスチャーはリアリティあるデッサンのコツ」
> 「デッサンで全体感をつかみ、存在感を表すコツ」

コルヴィッツ※1の素描

同じポーズをとることでよく観察できる

デッサンにおけるジェスチャーはいわゆる身振り・手振りのことではなく、目に見えない動機、軸のようなものです。

人物のジェスチャーを観察するためには、描き手が観察する相手のジェスチャーを自分の身体の感覚に置き換えて感じることが必要です。つまり、相手と同じポーズを取る(または取っている感覚になる)ようにします。

そうすると、立ち方、座り方、力の入れ具合、抜き具合、などから、その感情や内面を観察することができます。

この観察をきちんとしておくと、人物の外形を描くときに全体の重心や動きの統一感を意識するようになるので、人物の全体性が表れやすくなります。

ワイズバッシュ※2の素描

相手の体験を自分の体験に置き換える

人は感じたことのない感覚は知りませんし、理解できません。あなたが相手のジェスチャーを感じるためには、過去に自分が感じたことのある感覚に置き換える必要があります。

リラックスして座ることや、姿勢を正してまっすぐ立つことはあなたにも経験があるはずです。そのため、モデルがそのようなポーズを取っている場合、あなたは簡単にそのジェスチャーを観察することができます。

逆にあなたが経験したことのないようなポーズや動きをモデルがしている場合、あなたはそのジェスチャーの観察に少し苦戦するでしょう。そして、自分が知っている似たジェスチャーに置き換えながらそれを感じ取ることになります。

例えば、サッカー選手が相手選手とぶつかりあいながらボールを取る、けが人が重症で体を動かせずベットに横たわっている。これと全く同じ体験したことのない人は、これらを描くときに自分が経験したことのある他の体験を参考にして、ジェスチャーをつかむことになります。

自分の体験に置き換えると別物になる?

「相手のジェスチャーを自分の経験したジェスチャーに全て置き換えてしまったら、相手のジェスチャーを正確に観察できていないのでは?」と思われるかもしれません。確かにそうです。実際のところ、厳密には相手が感じているのと全く同じジェスチャーを感じることはできないでしょう。

しかし、結局自分が感じる取ることができるものは自分が経験してきた範囲の中だけです。

そのため、描き手が出来るのは、相手になりきろうと努力することで相手に近づくことです。

まとめ

まずは相手のジェスチャーを自分の身に起きていることのように強くイメージしましょう。それが相手のジェスチャーを観察する有効な方法です。

相手になったつもりで、世界を感じてみてください。相手が歩き出したら、同じ歩き方をしているつもりになってみます。あなたと歩き方が違うはずです。それはどのような感じでしょうか?

最初は目に見えている動きを真似してみます。その動きから、相手の内面を感じ取ります。歩き方ひとつとっても、ゆったり歩いているのか、急ぎ足か。その気分も含めて、多様なジェスチャーがあります。

これらを捉えて描き出すことが人物デッサンを魅力的に、つまり、うまく描くコツです。

このテキストでは観察の方法について紹介しました。具体的な訓練方法・手順を以下のテキストで紹介していますので、そちらもごらんください。

> 「人物デッサンでモデルを観察するための練習」

参考と脚注

B・エドワーズ『内なる画家の眼』エルテ出版、1988年

K・ニコライデス『デッサンの道しるべ』エルテ出版、1997年

※1
ケーテ・シュミット・コルヴィッツ(ドイツ:Käthe Schmidt Kollwitz
1867─1945

※2
クロード・ワイズバッシュ(フランス:Claude Weisbuch
1927─2014