モデルをよく観察して描くためには、あなたの身体感覚を通してモデルのジェスチャーを観察し、それを再現します。
ただ、あなたがジェスチャーの観察を意識したことがない場合は、観察と描写を同時並行で行うことが難しいかもしれません。
そこで、準備体操のようなものとして、このテキストではとにかく観察することだけに集中する練習を行います。
1. 練習の内容
・制限時間:30分(1ポーズ1分を30回繰り返す)
・目的:モデルのジェスチャーを観察する
・行動:モデルになりきる
テキスト「人物デッサンのコツは相手になりきること」を読んでからこの練習を行ってください。
1-1. 画材の準備
この練習では使いません。
1-2. モチーフの準備
街中や職場、校内でたまたま目に入った人をモデルにします。
始めはポーズが大きく変わらなさそうな人を選びましょう。例えば、座っている人や横になっている人などです。
慣れてきたら、歩いている人や立っているいる人など、動きのあるモデルにもトライしてください。
1-3. 手順1
モデルの姿勢や動きを見て、あなたもそれと同じポーズを取っているイメージをしてください。可能な限り、具体的にイメージすることが大切です。
例えば、「重心はどのあたりか?」「こわばって緊張している筋肉はどこか?」「緩んでいる筋肉はどこか?」「呼吸はどれぐらいの速さ、深さなのか?」「モデルは何をしようとしているのか?」「モデルはどんな気持ちか?」
これらをあなたの身体に置き換え、モデルになりきってイメージします。
可能な状況であれば、イメージだけでなく、あなたもモデルと同じポーズをとってください。より、モデルのジェスチャーが観察しやすくなります。
1-4. 手順2
モデルを変えて手順1を何度も繰り返します。
2. 1分の観察は長いと思ったら
あなたは「1分間もジェスチャーを観察するのは長い」と感じるかもしれません。
その理由が「もう観察を終えて時間が余ってしまった」という場合は観察が甘いです。なぜなら、ジェスチャーの観察は、厳密に言えば絶え間なく続けることができるからです。
例えば、モデルの呼吸は繰り返され、その度に筋肉の緊張と弛緩が起こります。モデルが頭の中で考え事をしていれば、その内容が変わるたびにジェスチャーは変化します。ジェスチャーは刻一刻と変化しているのです。
また、あなたが1分は長いと感じる理由が「1分も観察に集中できない」というときは、短い時間からトライしてみましょう。まずは10秒、できたら20秒、というふうに、少しずつ時間を延ばしていってください。
3. モデルになりきるのが難しいなら
「モデルになりきるのが難しい」とあなたが思ったなら、次のようにしてみてください。
あなたは想像します。あたかも、幽体離脱をしたようにあなたはあなたの体を抜け出し、モデルの体にすっぽりと収まりました。すると、あなたから見ていた景色が、モデルから見ている景色に変わります。それはどんな景色ですか?
また、あなたは体型も変わったようです。腕一本動かすにしても、いつもと重さが違います。足やへその位置も、モデルとあなたの体型が異なる分だけ違います。
・・・このようにして、モデルのジェスチャーを観察してみてください。
4. モデルが動いてしまった
ポーズを観察している最中にモデルが動いてしまい、観察が全く追いつかないこともあります。そんな時は、細かいポーズは無視して、大まかなジェスチャーだけを観察してみましょう。
例えば、リラックスしている、緊張している、前に進もうとしている、などです。
参考と脚注
K・ニコライデス『デッサンの道しるべ』エルテ出版、1997年