鉛筆などの描画材の持ち方と使い方|デッサン

デッサンでは、鉛筆の他にも画用木炭やチョーク、パステル、ペン、筆など、さまざまな描画材が使われます。今あげた描画材の中で、筆を除く描画材は、持ち方に関して大きな違いはありません。

描画材の正しい持ち方は、その都度適した持ち方をすることです。どのようなタッチで描きたいのかを具体的にイメージし、それに合わせて持ち方を調節します。

つまり文字を書くときのように、一つの持ち方だけに限定してデッサンを行うのは稀です。

マティス※1の素描

最も大切な「イメージ」

描画材をどうのように持つかは、「イメージ」を基準にして決まってきます。何を「イメージ」するのかといえば、あなたがこれから引く線です。

線を引きながら「イメージ」を確認するのではなく、引きたい線が「直線」であるなら「これから引くべき直線」を先に「イメージ」します。直線以外を引く時も同様です。その都度、画面上に現れて欲しい線を「イメージ」し、それを目指して実際に線を引きます。そうすれば、自然と描画材の持ち方は決まってきます。

例えば、あなたが鉛筆で植物を描いているとします。絵は仕上げの段階にさしかかっていて、葉脈をこれから描こうとしています。このような時にはおそらく、鉛筆を文字を書くときのように持つのではないでしょうか? 繊細な葉脈を描画するという目的のためには、それにふさわしい、より繊細なコントロールができる持ち方をすることになるからです。

違う場面で、あなたは一辺が100cmの正方形の画用紙に、勢いのある直線を鉛筆で描こうとしています。定規などの補助器具は一切使いません。この時文字を書くときのように鉛筆を持つと、あまり勢いよく線を引くことができません。太鼓のバチを持つようにして鉛筆を持つのが妥当でしょう。

画材はあくまでイメージを表す手段です。大切なのは現れるイメージであり、それに合わせて画材の持ち方を変化させます。

持ち方の例

デッサンをするときによく見られる持ち方を紹介します。

1|文字を書くときの持ち方。デッサンではあまり使いません。描画の際に少し手を浮かしたり、小指だけで支えたりすると画面を汚さずに済みます。細かい描写をするのに適した持ち方です。

2|教師がチョークで板書しているときの持ち方に近い持ち方。この場合、鉛筆を主に支えるのは親指の末節部(図のa)と人差し指の末節部(図のb)の2点です。加えて、鉛筆がぐらつかないようにするために、中指の末節部(図のc)や薬指の末節部(図のd)、母指球(図のe)などで補助的に鉛筆を支えることもあります。筆圧が自由にコントロールしやすく、デッサンで基本となる持ち方です。

3|2と同じ持ち方で、手首を返す。大きな範囲に線を敷き詰める時などに有効です。これもデッサンで頻繁に使う持ち方です。

4|描画材全体を画面につけられるように、描画材の中心あたりをつまむ。短いチョークやパステルなどを横にして、太い線を引くときに使います。ざっと色を付ける時などに使われます。

以上が主な描画材の持ち方です。あくまでも描画材と引く線のイメージに合わせて、その都度適すると思った持ち方で描画してください。

ロバート・キャパが撮影したマティス

全身を使って描く

デッサンをする際は細密に描く場合でも全身を使って描きます。指のわずかな動きですら、全身の筋肉の助けを借りなければならないからです。

次の動きを想像してください。あなたは高級レストランにいます。格調高い空間の中で、あなたはできるだけ優雅に、品がある動きで食べ物を口に運ぼうとします。

この時、指先だけ優雅に動かして、全身はラフな動きというのは難しいはずです。おそらく、足や背中にも意識を向け、全体で品のある動きをすることで、指先の動きにも品を出そうとするでしょう。あなたは自覚していないかもしれませんが、全身で品があるというイメージを表現しようとしています。

デッサンをする時も同じようにしてください。繊細な描写をする時は繊細な全身の動きが必要です。勢いのあるダイナミックな線を引く場合、だらだらと体を動かしながらでは引けません。

また、全身を使うことで大きなストロークの線が引けます。大きなストロークの線を引けるようになることは、画面サイズが大きくなるほど重要です。

例えばB3(364×515mm)の画面いっぱいに長大な直線や曲線を引こうとすると、文字を書くための鉛筆の持ち方では小手先の仕事か、よくて肘から先だけのストロークしか生まれません。そうなると、どうしても引いた線が部分的に太くなったり、細くなったりと安定しないのが目立ちます。

これは自動車の運転に似ているかもしれません。自動車の運転では、数メートル先だけに集中していると、ハンドリングが不安定になります。

さらに大きな画面になれば、小手先による鉛筆の扱いだけでは線を自由に操ることが一層難しくなってしまいます。しかし、先に紹介した2のデッサンの基本となる持ち方であれば、全身を使って、様々な線が引けます。

画面の上に手を置かない

描画材で線を引く際、できるだけ手が画面に触れないようにします。

これは手の皮脂、汗などを画面に付着させてしまうことを避けたり、画面に定着している顔料を擦ってしまうのを避けたりするためです。特に、文字を書くときの持ち方では手が画面につくので注意が必要です。文字を書くときのように持つ時は、「マールスティック」という補助具を使うことで画面が汚れるのを防ぐことができます。

また、画面と手を離すことで、腕の自由度を可能な限り確保できます。

腕の自由度を確保することによって、腕の可動範囲が大きくなり、短長様々なストロークを持った線をその強弱、肥痩(ひそう)、濃淡がコントロールできるようになります。

参考と脚注

※1
アンリ・マティス(フランス:Henri Matisse
1869─1954