上達は、正解を当てることから始まらない
絵が上手くなりたいと思ったとき、多くの人はまず「正しい描き方」を探そうとします。
どうやって線を引けばいいのか。
どこから描き始めればいいのか。
どうすれば形が合うのか。
どうすれば失敗せずに描けるのか。
もちろん、描き方を知ることは大切です。でも、初心者のうちにそれ以上に知っておいてほしいことがあります。
それは、失敗してもいいから、まずやってみること。
そして、失敗したところから、次の一手を見つけること。です。
絵は、最初から正しい線を引き続けて完成させるものではありません。
「これでいいのかな」
「少し違う気がする」
「こっちの方が良いかもしれない」
そんなふうに考えながら、描いて、比べて、直していく。その試行錯誤の繰り返しが、上達につながっていきます。
線を引いてみる。
間違っていると思ったら消してみる。
それを繰り返す中で、
「この線はいいかも」
「これはこんなときに使いやすい技法だ」
という発見が生まれます。
つまり、上達するために必要なのは、最初から正解を知っていることではありません。
自分で試して、その結果を見て、次はどうするかを考えられること。
これがとても大切です。

左:ドミニク・アングル※1
上達のカギは観察力にある
では、どうして試行錯誤すると絵が上手くなるのでしょうか。それは、試行錯誤する中で見る力が育っていくからです。
絵を描くとき、見えていないものを描くことはできません。たとえば、自分が描いた人物を見て、「なんとなく変だな」と思ったとします。でも、「なんとなく変」だけでは、どこを直せばいいのかわかりません。
顔が大きいのか。
体の傾きが違うのか。
立体感が足りないのか。
腕の長さがおかしいのか。
重心の位置がずれているのか。
その違いが見えて、初めて直すことができます。つまり、描く力と同じくらい大切なのが、
違いに気づく力
なのです。
デッサン上達の秘訣のひとつは、観察力です。自分の絵のどこに立体感が足りないのかが見えれば、そこを直すことができます。ところが、初心者のうちは、この「違いを見ること」そのものが難しいものです。
先生や経験のある人には見えているものが、自分にはまだ見えない。そこで、先生からヒントをもらったり、描き方を教えてもらったりします。でも、先生の目そのものを借りることはできません。最終的には、自分で描いて、
「違うかもしれない」
と感じて、
「ここかな?」
と直してみる。そしてもう一度見る。
この繰り返しの中で、自分の目を育てていくしかありません。だから、試行錯誤が必要なのです。正解を教えてもらうだけでは、自分の目は十分には育ちません。自分で一度やってみて、うまくいかなかったからこそ、
「なぜだろう?」
という問いが生まれます。
その問いがあるから、次に見るところが変わります。見るところが変われば、今まで気づかなかったものに気づくことがあります。
そして、
「ここを変えたら良くなった」
という経験が一つ増えます。それが少しずつ、自分の中に蓄積されていきます。

知っているだけではなく、やって実感する
実際、受講生の方から、こんなことを言ってもらったことがあります。
「失敗してもいいからと言ってもらえたので、思い切って描けました」
私は、この言葉がとても印象に残っています。「失敗してもいい」という言葉の大切なところは、単に気持ちが楽になることだけではありません。
失敗してもいいと思えたから、実際に手を動かすことができた。
ここが大切なのです。失敗してはいけないと思うと、なかなか手が動きません。
「この線で合っているかな」
「変になったらどうしよう」
「もっとちゃんとわかってから描こう」
そう考えているうちに、線を一本引くことすら怖くなることがあります。でも、線を引かなければ、何も起こりません。失敗も起きませんが、発見も起きません。
一方で、
「間違ってもいいから、とりあえずやってみよう」
と思って一本線を引くと、その線を見ることができます。すると、
「ちょっと傾きすぎたな」
「もう少し短い方がいいかもしれない」
「さっきよりこっちの方が自然だ」
ということが見えてきます。つまり、行動したことで初めて、次の一手が生まれるのです。
たとえば、あえて「思いっきり濃い線」で、あたりを取ってみるのも一つの実験です。
あたりは通常、あとで修正しやすいように薄く描きます。でも、それを知識として「薄く描くものです」と覚えるだけではなく、あえて濃く描いてみる。すると、間違えたときに消しても線が残ります。そこで、
「ああ、あたりは薄く描いた方がいいんだ」
と実感できます。知っているだけなのと、自分で経験して実感するのとでは、身につき方がまったく違います。これは小さな例ですが、絵の上達ではこうした経験がとても大切です。
誰かに、
「この線はこう引きましょう」
「ここはこう見ましょう」
「これはこう描くといいですよ」
と教えてもらう。
それも必要です。でも、その言葉を本当に自分のものにするには、
自分でやってみる。
失敗する。
違いを見る。
もう一度やってみる。
という経験が必要になります。だから私は、失敗そのものを避ける必要はないと思っています。むしろ、失敗した後に何を見るか。こちらの方が大切です。
上達とは、次の一手を見つけられるようになること
絵が上手くなりたいとき、最初から正しい答えを出そうとしすぎなくて大丈夫です。
まずやってみる。
違ったら直す。
もう一度見る。
そしてまたやってみる。
その繰り返しの中で、
「ここが違う」
「こうすると良い」
「この方法は使えそう」
という発見が少しずつ増えていきます。そして、その発見を重ねるうちに、今まで見えなかったものが少しずつ見えるようになります。
絵が上手くなるというのは、単に手先が器用になることだけではありません。
自分で違いに気づき、次の一手を見つけられるようになること。
そのために、試行錯誤が必要です。失敗しない人になる必要はありません。むしろ、
失敗してもいいから、まずやってみる。
そして、その失敗の中から次の一手を見つける。
これが、絵を始めたばかりの人に、最初に知っておいてほしい上達のコツです。
※1
ドミニク・アングル(Jean Auguste Dominique Ingres)
c.1780─1867
