デッサンでよく使われているおすすめの鉛筆

鉛筆にはたくさんの種類があります。製造業者も、硬度(2Bや2Hなどの硬さの度合い)の幅もいくつもあります。

このテキストでは豊富な種類の鉛筆の中から、デッサンをする人がよく使っている鉛筆に焦点をあてて紹介します。初学者の方は鉛筆を選ぶ時の参考にしてください。

デッサンによく使われている鉛筆

私の美術予備校、美大時代の経験から、日本でデッサンをする人がよく使っている鉛筆は三菱鉛筆株式会社の「uni(ユニ)」と「Hi-uni(ハイユニ)」、STAEDTLER(ステッドラー)社の「Mars Lumograph(マルス ルモグラフ)」の3つです。

これらの鉛筆は、描き心地や、色味、色を重ねた時の美しさなど、それぞれに個性があります。ユニとハイユニはステッドラーに比べて黒鉛が柔らかく、ステッドラーはカリッとしたシャープな線が引ける印象です。ハイユニはユニの高級版です。

3種類のうちどれかを選んで使う人もいれば、用途や硬度別に使い分ける人もいます。

鉛筆の硬度とは

鉛筆の硬度とは芯の硬さの度合いのことです。実際には硬さに加えて、色の濃淡も異なります。

硬度は数字とアルファベットの組み合わせで表記されます。Hは「Hard(硬い)」、Bは「Black(黒い)」、Fは「Firm(しっかりした、ひきしまった)」の略字です。数字は大きいほど、後につくアルファベットの特徴が大きいことを表しています。Fには数字がつかず、硬度はHBとHの間に位置します。

日本は、かつてドイツが規格化した硬度表記を取り入れていますが、日本製の「uni」、「Hi-uni」とドイツ製の「Mars Lumograph」では、同じ硬度表記でも、実際の硬度や濃淡が違います。

現在、日本の6B~9Hの硬度に関しては、日本工業規格(JIS)で基準が設けられています。それに加え、三菱鉛筆株式会社はさらに硬度の幅を増やし、10B~10Hの硬度の鉛筆を製造しています。

ちなみに、HとB、Fの表記は19世紀初頭、ロンドンのBrookman(ブルックマン)社が最初に使いました。ただ、当時は現在の表記と少し違うものでした。現在、イギリス、フランス、ドイツなどでは説明したH、B、Fの表記で落ち着いています。

Fig.1

硬度の違いとマチエール

鉛筆の硬度が違うと、色だけでなく紙にどう黒鉛が付くかが異なります。

現在の鉛筆の芯は、一般的に黒鉛と粘土で作られます。黒鉛は黒の深さと、粘土は硬さと関係しています。黒鉛が多く粘土が少ないほど濃くて柔らかく、黒鉛が少なく粘土が多いほど色が薄くて硬い芯になります。

軟らかい芯は力を入れるとすぐに折れてしまい、硬い芯は筆圧を強くすると紙にダメージを与えてしまいます。黒鉛の粒子が紙に定着することが鉛筆を使った「書く(描く)」という行為における基本的な物理現象です。粒子は、鉛筆の芯を紙の上で動かすことによって起きる摩擦でできます。

鉛筆と紙を拡大してみると、硬度の違いによって粒子の付着の仕方が違うのがわかります。Fig.1の逆三角の黒い形は鉛筆の芯の先を、波線は紙の表面の凹凸を表しています。黒い点々は芯からでた粒子です。

(a)の芯は硬く、簡単には粒子がでてきません。それに対して(b)は芯がもろいため、軽い摩擦でも粒子がでて広がります。

粒子がでにくい(a)は粒子を紙に定着させるために、芯で圧力をかけながら紙に粒子を刷り込むため、紙が凹みます。(b)は紙へ圧力が少なくても広範囲に粒子が付着します。また、出る粒子が多いので、線がざらついたり太くなったりする傾向があります。

粒子の付き方の違いよってもたらされる表面のマチエール(仏matiére:素材や材質によってつくられる美術的効果)の違いは、デッサンの表現の幅を生み出します。濃淡だけでなく、このようなマチエールの違いにも目を向けましょう。

どの鉛筆を選べばよいのか

どの鉛筆を選べばよいかで困っている方は、最初に挙げた3つの商品の硬度をそれぞれ一揃えし、全て使ってみてください。

硬度を幅広く使っていると、その描き心地の違いに驚くでしょう。また、2Bと3Bなど、隣の硬度でも描き心地がそれなりに違うことに気づきます。

私の個人的な印象では、Fより硬い硬度の鉛筆はとても硬く感じ、6Bより軟らかい硬度になると黒の色味が違うように感じます。

しかし、人の意見よりも、実際に使ってみることです。そしてあなたが気に入った描き心地のものを選んでください。