形をデフォルメしてデッサンの構成を考える

「力強いデッサンをしたい」「ダイナミックな構成をしたい」、そんなときはモチーフをただ写しとるだけでは不十分です。

画家の意図や企画をモチーフを通して表現するときには、モチーフをどう扱うか、どうデフォルメするかが重要になってきます。それはモチーフの置き方でも表現できますし、モチーフのどの特徴を選び取るかでも表現できます。そして、そのモチーフの扱いと解釈の仕方が画家の個性にもなります。

ここではモチーフのデフォルメに焦点を絞って話をします。初心者から一歩抜け出すために、デッサンにある程度慣れてきたらモチーフのデフォルメに挑戦してみましょう。

形をデフォルメする

例えば、円錐をデフォルメします。円錐は十分に単純な形ですが、さらにデフォルメをすることができます。

私なら、底辺の円の中心にまず筆先をしっかりを置き、そこから先端の尖った部分まで勢いよく、力を抜きながら直線を引きます。線の幅は、引き始めはやや太く濃くなり、先端へ向かうほど薄く細くします。

人物の場合はもう少し複雑なので、数本の線にします。まず、一本の線でその人物の動きや形を特徴付けるフォルムを描きます。これは輪郭よりも、人物の身体の内側を通る長い線となるでしょう。要は、その人物のジェスチャーを一本で描き出します。(Fig.1)

Fig.1 人物の中心にあるS字の曲線が最初に引いた線

> 「ジェスチャーはリアリティあるデッサンのコツ」

次に、そこから輪郭に関係する線を、長めに、できるだけ少ない線で描き加えていきます。線があまりに短かったり、何十本も引いたりしてしまうと、対象の中で最も重要なフォルムを見逃してしまいますので、できるだけ大胆で、かつ少ない本数で表現しましょう。

デフォルメの具体的な訓練に関するテキストへは本テキストの一番下のリンクから辿ってください。

ちなみに、陰影のデフォルメで代表的なものはキアロスクーロという技法です。

> 「デッサン上達にはキアロスクーロ(明暗法)」

画面の構成が考えやすい

モチーフを画面内にどう配置するかを考える時、モチーフの複雑さに振り回されるとダイナミックで効果的な構成を考えるのが難しくなります。

そこにデフォルメと取り入れると、「画面の中の動きの構成をどうするか?」「どんなリズムでモチーフを配置するか?」というのがとても考えやすくなります。

注意して欲しいのは、実際に描き進めて細部を描写するときも、そのデフォルメした形が持つ動きやリズムを意識して描写をコントロールすることです。例えば、タッチや色、陰影をコントロールします。

そうすることで、デフォルメした形で構成された画面のダイナミズムや明快さを保ったまま、描写を進めることができます。

逆に、描画の途中でデフォルメしたモチーフの特徴を打ち消すような描写をしてしまうと、せっかく考えた画面の構成が台無しになってしまいます。

これを避けるためには、デッサンの前にエスキース(スケッチ、下絵の意)をして、どんな構成にするのかはっきりさせておきましょう。

正確なデフォルメはジェスチャーも暗示する

モチーフをデフォルメするということは、複雑なモチーフを見たまま複雑に描くより難しいことです。なぜなら、そのモチーフの軸、らしさに関わるジェスチャーを正確に捉えなくては、デフォルメした時にそのモチーフの印象が出ないからです。

対象のジェスチャーを捉えていないデフォルメは単なる手抜きに見えしまいます。しかし、うまくデフォルメできれば、ただ目に映ったまま描写するよりもそのモチーフらしさを演出できます。

デフォルメは初心者が垢抜けるための一歩です。これができるようになってくると、それが描き手の個性、腕の見せ所となります。そして、デッサンが一段と面白くなってくる段階でもあります。

明快で力強い表現になる

デフォルメをせずに、ただ写し取って描いたモチーフを画面内に配置すると、こちょこちょして繁雑した画面の印象になりがちです。その結果、何を見せたいのか、表現したかったのかよくわからないデッサンになりがちです。

デフォルメをするということは、自分が表現したいことのためにモチーフから情報を取捨選択することでもあります。同時に、目的やテーマのために情報を整理することになります。

そしてその過程で、その情報の選択と整理を自分でも意識するようになり、自分が何を表現したいのかが見えてきます。結果、表現したいことや伝えたいことがを明快なデッサンができるのです。

> 「表現の領域|人物デッサンでデフォルメの練習」