タッチはデッサンで感情、印象、運動を表現

デッサンをすると必ず画面上にそのタッチが残ります。そしてこのタッチは意識的であってもなくても、画面上にほぼ自動的に発生し、画面の印象に影響してきます。

タッチをうまく使い分けるようになると、あなたが表現したいことがもっと明確に伝えられるようになります。タッチは会話中の表情のようなもので、言葉だけでは伝えきれない微妙な雰囲気や感情を伝えるのに向いています。

デッサンに慣れてきたら、対象の形態に合わせて線を引くことに加え、線一本一本のタッチも仕上がりに影響してくることを自覚してデッサンをしましょう。

美術分野でのタッチとは

「タッチ(英:touch、仏:touche)」は、美術分野で「筆触」「筆致」「筆使い」などとう意味です。

タッチは、簡単なスケッチから油画や日本画などの様々な絵画面に、実際に手が加えられた場合に見られます。偶発的に付いた傷や滲みというより、画家の意思や感情と直接的に結びつくものです。

主に、筆などによる物理的な接触の跡、例えば、紙に残された鉛筆の粒子の形をタッチと呼びます。加えて、タッチを残す画家の動き自体も含む傾向があり、そのためペンタブレットなどのデジタルツールによる描画の痕跡もタッチと呼びます。

タッチが与える効果

タッチは、画面にこれを与える画家の意図や感情を暗示します。

例えば、手で書いた文字を見る場合、その筆圧や勢いなどから文字を書いた人の特徴や感情などをある程度推測できます。これは手書きの文字だからできることで、本に印字された文字からは読み取れないものです。

手書き文字から特徴や感情を読み取るように、タッチからもそれらを読み取ることができます。荒々しい奔放なタッチ、繊細で緻密なタッチなど、様々なタッチによって、鑑賞者に異なったデッサンの印象を与えます。

タッチで表現できるのは心理的なものだけではありません。タッチをうまく利用すれば、ボールが落ちてゆく様など、物体が運動しているイメージを明確にすることもできます。この手法は漫画やアニメーションなどでもよく利用されています。

タッチによる効果の違いの例

ダ・ヴィンチ※1による素描を例に見ていきましょう。

Fig.1と2の斜線のタッチを見てください。一見、2つとも同じような斜線に見えます。しかしよく見ると、騎馬兵と人物像とではそれぞれのタッチが醸し出す印象が異なっています。

Fig.1 ダ・ヴィンチの素描
Fig.2 ダ・ヴィンチの素描

Fig.1の斜線には、非常に素早く切りかかるかのような、勢いのあるタッチを与えていることが見て取れます。そうすることで、騎馬兵の躍動感溢れる印象が表現されているのです。

一方で、Fig.2の場合には、比較的淡々と、落ち着きのあるタッチで人物が描かれています。そしてそのタッチが、描かれている女性の性格、心情、雰囲気を鑑賞者に暗示しています。

このように、一見同じような斜線のタッチでも、その筆圧やスピードから違う印象を鑑賞者に与えます。

また、Fig.3はデジタルツールで描いた形をあたりとして、それに異なるタッチを与えたものです。この図は、同じ形を描いたとしてもタッチによって異なる印象になることを示しています。

Fig.3

Fig.3を見て、どのタッチがどんな印象、質感、感情、性格を暗示しているか、それぞれを自分なりに言葉にしてみてください。また、それらのタッチを引いた時の筆圧やスピードも想像してみてください。

同じ画家のタッチには統一感がある

鑑賞時には画家の制作意図や制作スタイルが注目されることが多く、タッチもそれに付随していると考えられます。しかし、それ以上に画家自身の私的な生い立ちや環境的要因がタッチに影響しています。つまり、タッチは画家の個性そのものです。

同じ画家が異なる意図を持って描いたタッチであっても、不思議とタッチに統一感が出ます(Fig.4)。これは、タッチが意識的に作られるものでもあり、無意識的な働きかけでもあるためです。

Fig.4

Fig.4は当サイトスタッフが様々な場面で描いたデッサン群です。1と5が鉛筆、2と4はボールペン、3は木炭で描かれています。

1のデッサンは淡々と、慎重に描いたものです。2、4については非常に直感的で、高まったインスピレーションをすかさず描画したものです。

これら5枚のデッサンのタッチはすべて異なりますが、同じ人が描いているため統一感もあります。

まとめ

タッチは意識的に扱うことでデッサンの表情になります。

何を描くかがテーマに関わるのに対して、タッチはその描かれたものの心境や印象といった、感覚的なものに訴える言語と言えるでしょう。

もちろん、タッチに無頓着でも自動的にその画家の個性としてタッチは表れます。しかし、より表現豊かで魅力的なデッサンをするためにタッチを意識することが重要です。

参考と脚注

※1
レオナルド・ダ・ヴィンチ(イタリア:Leonardo da Vinci
1452─1519