シンプルなりんごのデッサン、その描き方

40分のデッサン

デッサンをしてみたいけれど、周りに描いている人がいないためにどう描けばいいのかわからない、ということがあると思います。実際に誰かが描いているところを見て描くのが、デッサン上達の近道であるのは確かです。

このテキストでは初心者向けのごく基本的なデッサンのプロセスを画像に沿って解説していきます。何からどう描いていけばいいのかわからない、という人のヒントになるでしょう。

描き方は他にもありますが、ここで紹介するの描き方は初心者の方にとって取り組みやすい方法となっています。ぜひ参考にしてください。

道具と時間

りんご一個
3Bの鉛筆
りんごより一回り以上大きい画用紙
40分(前半20分は形を合わせる時間)
※初心者の方はもっと時間がかかると思います

描くポイント

ライティングは強めにし、陰影がはっきり出るようにします。その方が絵になりやすいうえ、初心者の方でも陰影を観察しやすいからです。

照明はスポットライトのようなもので、モチーフを斜め上から照らすのが理想です。100円で売っているようなものでも大丈夫です。

このデッサンの目標はりんごの形(立体)と陰影を表現することです。

りんご表面の斑点模様などは装飾的なものなので、基本的なデッサン力を鍛える時にはそこまで重要ではありません。家を建てる時に、壁紙から貼り始める人はいません。まずは土台を作り、その上に骨組みをしていきます。

デッサンで土台と骨組みに当たるのは形(立体)と陰影です。壁紙に当たる表面の模様は仕上げの段階で描き込みます。

ウォーミングアップ

まずはりんごをよく観察するためのウォーミングアップを行います。

これは形が狂っていても構いません。完成を意識する必要もありません。あくまで観察のためのエスキース(仏:esquisse 下絵、スケッチ)だと考えてください。

この観察をしておくと、本番でもりんごの立体を意識しやすくなります。目だけで観察するとお粗末になることがあるので、必ず手も一緒に動かしましょう。

コピー用紙やスケッチブックなどに、りんごの形の凹凸を描いていきます。表面の立体に合わせて手を動かしましょう。凸のところは筆圧を弱く自分に迫ってくるように、凹の部分は筆圧を強くして奥に押すようにし、その立体感を目と手で観察していきます(Fig.1-a,b)。

Fig.1-a
Fig.1-b

形も色も気にせず、りんごの凹凸に合わせて手を動かしましょう(Fig.2)。時間は数分〜好きなだけ行ってください。

Fig.2

形をとる

ウォーミングアップが終わったら画用紙を準備します。ここからが本番です。

まずは形をとっていきましょう。すべて直線で描いていきます。その方が形の狂いが少なくなるからです。また、筆圧はごく弱くしてください。筆圧が強いと、後の描画に響いて美しくないデッサンになる恐れがあります。

Fig.3のような感じで描いていきます。画用紙の真ん中に、モチーフと同等〜1.2倍の大きさで描きます。

Fig.3

モチーフを薄い四角い枠のアタリで囲み、そこから形を削り出すように描いていきます。まずは大雑把に、単純化して直線で輪郭を捉えていきます。影も一緒に形を描いてください。影も構図に影響するためです。

大雑把に形が取れたら、それを少しずつ細分化していきましょう。

この時も直線で、薄く描いていきます。曲線のモチーフも、直線を細かくつないでいくことで形が狂いにくくなります。細分化が進んできたら、輪郭だけでなく、明暗の境界に当たる部分も直線で描いていきます(Fig.4)。

Fig.4

明暗の境界線は、明暗が大きく2色に分かれるような部分を選びます。わかりにくい場合は目を細めてりんごを見てください。すると色のコントラストが強くなるので、明暗を2つにわけやすくなります。間違っていてもいいので、怖がらずに思い切って分けてみましょう。

色をつける

十分に形が取れたと思ったら、明暗の境界線を頼りに色をつけます。

まずは暗部に当たるところのみを一色で塗ります。後の仕事の邪魔にならないように、強いタッチは残さず、できるだけ均一に綺麗に塗るように心がけてください(Fig.5)。

Fig.5

色をつけたら明暗の境界線や輪郭線がボケてしまうので、それらをもう一度描き起こします(Fig.6)。

Fig.6

肉付け

明暗の境界線付近を中心に肉付けを行っていきます。

2色に明暗を分けただけでは形がパキパキしているように見えてしまい、りんごの丸みが表現できないからです。肉付けは、2つの色の境界線をグラデーションでつないでいくイメージで描いていきます。

この時、明暗の境界線付近の形の変化が急であれば肉付けの範囲を狭く、緩やかであれば肉付けの範囲を広くします(Fig.7)。

Fig.7

明暗の境界線の付近の肉付けが終わったら、暗部と明部の中でも色の差をつけていきます。ただし、最初に分けた明部と暗部を意識し続けてください。

明部の中は明るい色に見えるように、暗部は暗い色に見えるようにし、その範囲内で色を作っていきます(Fig.8,9)。

Fig.8
Fig.9

ヴァルールを合わせる

肉付けがだいたいできたら、全体のヴァルールを合わせましょう(Fig.10,11)。

Fig.10
Fig.11

最初に見た時のように、目を細めてりんごを見てください。その時の色のバランスを覚えておき、今度はあなたが描いたデッサンを目を細めて見ます。

それらの明暗の色の差が、モチーフのりんごと画面の中のりんごとで同じような差になるように、画面の中の色を調整します。目を開けたままだと色の変化が確認しにくいですが、目を細めるとそれが比べやすくなります。

影をもっと黒くする必要がある時などは、色をつけるところまで遡ってやり直します。

> ヴァルール(バルール)は写実デッサンのコツ

仕上げ

これ以降はあなたが描きたいだけ描いてください。

仮に、りんごの表面の模様に興味がなければ、ここで筆をおいても良いでしょう(Fig.12)。

Fig.12

基本的な描き方で大切なのは、モチーフの形(立体)と陰影が適切に表現されているかどうかです。

もし、りんごのつやや表面の模様もしっかり描きこみたい場合は、それらを描きこむたびに、全体のヴァルールを調整しながら描き進めてください。そうしないと、これ以前で作ったせっかくの土台が台無しになってしまうからです。

まずは土台と骨組みである形(立体)と陰影をしっかり作り、その上に壁や壁紙を貼っていくようなイメージで、土台を壊さないように模様を描きこんでいきましょう。