独学でデッサン力を上げるために注意すること

「独学でデッサンをやっても、うまくならないかもしれない」、または、教えてくれる人がいないので、「自分の進んでいる方向が正しいのかわからない」。あなたはそんな風に思っていませんか?

独学でデッサン力を上げることは可能です。ただし、先生がいないことのデメリットを知り、それを補う必要があります。それをせずに、やみくもに独学でデッサンをしていても、デッサン力はなかなか上がりません。

具体的には、「理論に従う」「一つのことに集中する」「環境を整える」「情報収集をしっかり行う」という点をしっかり抑えて訓練をします。

逆に、これらを自分で管理して行うことができない方には、独学をおすすめしません。先生と呼べる人に指導を受けたようがいいでしょう。

1. 独学の定義

ここでいう独学とは単に「先生につかない」「学校へ行かない」という意味です。「誰の影響も受けない」という意味ではありません。「誰の影響も受けない」というのはほぼ不可能だからです。

私たちは幼い頃からたくさんの文化を、好き嫌い関係なく目にしてきました。それらの文化は私たちに何かしらの影響を与えています。あなたのデッサンは、あなたが接してきた文化の影響を受けているため、あなた1人の感性から生まれたものではありません。

たとえば、鉛筆や絵の具を使うという発想も、どこかで見聞きしたから出てくるものです。

2. 習い方による違い

デッサンを習う方法の代表例は、「教室に通う」「個人レッスンを受ける」「独学」の3つです。それぞれの特徴を知ることで、独学以外の学習方法のメリットを知り、それを補う方法を考えます。

ただし、いずれの学習方法にせよ、デッサン力がどれぐらい上がるかは「あなたの努力」と「先生(または教本や手本)の力量」を掛け合わせたものになります。どちらが欠けても、思うようにデッサン力は伸びません。

2-1. 教室や画塾に通う

教室や画塾に通うメリットは、勉強をしている他人の姿が見えることです。実際にデッサンしている人たちを近くで見ることができるので、描き方などを参考にすることができます。また、他人の意欲に影響されたり、自分がデッサンしている姿を他人に見られたりすることで、自分のモチベーションも高まりやすくなります。

先生がいることももちろんメリットです。先生となる人はデッサンの経験が豊富なため、デッサンをするときに何に気をつければよいかを知っています。生徒の努力が無駄にならないように、適切なアドバイスをくれるでしょう。

2-2. 個人レッスン(通信教育と家庭教師)

個人レッスンは、「デッサンしている他人の姿を見れない」「自分がデッサンしている姿を誰かに見られない」という点が、教室や画塾と大きく異なります。やる気など、周りからの影響を受けにくいため、自分のモチベーションを自分で工夫して維持する必要があります。

個人レッスンのメリットは、先生の講評が丁寧になりやすいところです。というのも、画塾などで行われる講評(デッサンの出来を先生が評価すること)は、ぱぱっと簡単に終わってしまうことがしばしばあります。生徒が多くなると、先生が生徒1人に割ける時間が少なくなってしまうからです。

個人レッスンでは1対1で指導されるので、じっくり、丁寧に評価をしてくれるでしょう。

デメリットは、他人のデッサンと自分のデッサンを比べる機会が少ないことです。そうなると、競争心を利用して能力向上を加速させることがむずかしくなります。この問題については、他の受講生のデッサンを見せてもらうなど、先生に相談してみるのがいいでしょう。

2-3. 独学

独学の場合は個人レッスンと同じく、他人のデッサンと自分のデッサンを比べる機会がほとんどないというデメリットがあります。この点に関しては、画塾の体験コースや夏期講習に参加して、一度は他人のデッサンを見ておくといいでしょう。

また、指導をしてくれる人がいないため、デッサンの良し悪しと問題点を自分で判断することになりますが、これが初心者には大変です。

独学のメリットは、自分の好きなデッサンを追求できることです。「課題をやらされる」ではなく、「自分で自分に課題を課す」ことができます。

3. 独学の注意点

それぞれの習い方の違いをふまえて、独学でデッサンをする場合に守ってほしいことをあげます。それは「理論に従う」「一つのことに集中する」「環境を整える」「情報収集をしっかり行う」の4つです。

これらを怠ると、教室や個人レッスンで先生に習う人たちと比べて、勉強の効率がとても悪くなります。なぜなら、先生が舵とりをしてくれたり、準備してくれたりすることでこれらが補われているからです。

独学でデッサンを習う方は、それら4つをすべて自分で意識的に行わなくてはなりません。

3-1. 理論に従う

効率よくデッサン力を上げるためには、理論に従って描くのが一番です。例えば、三角測量などで形を合わせ、キアロスクーロ(明暗法)で陰影をつける、などです。

> 「デッサンで形を合わせる方法。三角測量のコツ」
> 「デッサン上達にはキアロスクーロ(明暗法)」

理論を体得すると技術になります。使っている技術に慣れてくると、その技術を感覚で扱えるようになります。たとえば、自転車に乗る練習をしているときは、「右足で踏み込んですぐに左足で踏み込む」といったように頭で考えます。しかし乗れるようになれば、何も考えずに感覚で自転車に乗ることができます。

感覚でデッサンができるようになるためには、とにかく訓練を積んで理論を体得してください。

3-2. 一つのことに集中する

短期的な目標なら、今から描くデッサンは「どの理論を使うのか」。長期的な目標なら、自分は「どのようなデッサンを描けるようになりたいのか」。これを1つだけ決めて、それに集中します。

デッサンですぐによい結果が出るのは稀です。レベルが高く、安定したデッサンをするためには、理論を体に染み込ませる必要があります。しかし、理論を体得するのには時間がかかります。そのため、初心者は「もっと効果的ですぐ結果につながる理論や方法があるのでは」と思い、道に迷い始めてしまうのです。

誘導が上手な先生は、生徒が放浪の旅で時間を無駄にしないように軌道修正してくれます。しかし、独学で行う場合はそれを自分で行わなければなりません。そこで、先ほどの小さな目標と、もう少し大きな目標を決め、それだけに集中してデッサンを行うようにします。

一つの理論を体得する期間は、毎日数時間描いても1ヶ月以上かかると思ってください。場合によってはもっともっと時間がかかります。技術を身につけるためにはある程度の辛抱も必要です。

3-3. 環境を整える

独学の場合は、自分のやる気をコントロールする技術も必要です。たとえば、3時間のデッサンをする予定が結局その日は何も描かなかった、ということがしばしばあります。

これを避けるためには環境を整えます。「この椅子に座ったらすぐにデッサンを始める」という環境を普段から準備しておくのです。毎日デッサンをするのなら、イーゼル、カルトン、画材、モチーフを置きっぱなしにしておきます。家の中にデッサン専用のスペースを作ってしまうことです。

「今日は描く気がしないな」と思っても、デッサン用の椅子に座ってみましょう。描く準備が整っていれば、案外描こうとういう気が起きてくるものです。

3-4. 情報収集をしっかり行う

訓練のなかばでコロコロと理論を変えないようにするためには、最初の情報収集が肝心です。情報収集が中途半端だと、質の悪い理論を選んでしまう可能性が高くなります。

1つの理論を体得するには、ある程度の情熱と辛抱が必要です。体得するまで続けるためにも、「なんとなくこれがよさそう」と思ったものよりも、「いろいろ調べたけど自分はこれに一番関心がある」と思ったものを使ってください。

4. まとめ

独学でデッサン力を上げる場合は、先生に習う人に比べて何が足りないかを知り、それを補う対策をします。具体的には「理論に従う」「一つのことに集中する」「環境を整える」「情報収集をしっかり行う」の4つです。

これらを自力で行う決意ができない人は、先生についてデッサンを教わることをおすすめします。

参考と脚注

Gerald M.Ackerman, Charles Bargue: Drawing Course, Art Creation Realisation, 2011

※1
シャルル・バルグ(フランス:Charles Bargue
c.1826─1883