デッサンの基本。画面を隠さない

デッサンをするときに、誰かに教えてもらわなければ気づかないことがいくつかあります。 画面を絶対に隠して描いてはいけないというはその中のひとつです。画面の一部が隠れた状態でデッサンをすると、構図のバランスがおかしいことに気づかないまま、デッサンを仕上げてしまう危険性があります。

私も初心者の頃はデッサンが下手だったので、恥ずかしさもあって画面の上に何かを置くことがありました。しかし、これではデッサン力はなかなか上がりません。

デッサン中は、画面のすみずみまで見渡せるようにしておいてください。画手本や紙、パレットなどで画面が隠れてはいけません。机の上で描く場合、イーゼルを使う場合、どちらもです。

画面を隠すと構図がわからない

画面を隠すのがよくない一番の理由は、画面の一部を隠すことによって画面の形が変わってしまうことです。これは構図の良し悪しにも関わってきます。

> デッサンでよい構図とはテーマが伝わる構図

デッサンをするとき、描く範囲はあらかじめ決まっています。四角い紙に描画するなら、その四角の中が描画できる範囲です。これは、デッサンをする上でほぼ逃れらない制限で、画家はそれを受け入れて絵を描きます。

そして、それが構図を考えることにつながります。

パレットやスケッチブックなどを画面の上に置くと、見えている画面の形は長方形ではなくなります。これでは描いている最中に構図を確認することができません。(Fig.1)

Fig.1 見えている画面の形が凹

また、画面の隣に別の紙などをピタッとくっつけて置くのもやめてください。画面が何かで隠された時には画面が凹の形に変形しますが、隣に何かを置くと、逆に画面が凸の形に変形したように感じることがあります。(fig.2)

Fig.2 無意識に感じる画面の形が凸

どちらにしても、無意識に感じる画面の形は変わり、デッサンのバランスに影響します。構図のセンスを磨くためにも、必ず画面のすみずみまで見れるようにしておきましょう。

ちなみに、画用紙をカルトンに挟むためのクリップはシルバーが好まれます。他の色に比べて、それが画面に及ぼす影響が少ないからです。

ヴァルールが壊れる

デッサンでは相対的に見ること、比較して見ることが大切です。画面を何かで隠してしまうと、それらの見方ができず、統一感のないデッサンになってしまいます。ヴァルールが壊れている状態です。

> ヴァルール(バルール)は写実デッサンのコツ

悪い描写の例を出しましょう。

画面の中に人物モデルの顔を描く場合、まず、画面内に顔のアタリをささっと取ります。次に、アタリをつけた顔の左側だけを白い紙で隠します。その状態で、紙で隠れていない、顔の右側だけを描写していきましょう。

顔の右側がある程度描けたら、白い紙をその上に移します。そして今度は、右側を隠した状態で、顔の左側だけを描いていきます。

顔の左側もある程度描けたら、白い紙を画面から取り払い、画面が全て見渡せるようにします。出来上がった顔は、形が左右非対称に歪んで見えたり、描写の程度や色のつじつまが合いません。

このように、画面のどこかを隠して描写をすると調和のとれないデッサンになってしまします。そのため、デッサンの最中はいつでも画面全てが見えるようにしておきましょう。

画面を汚してしまう恐れがある

制作中、きれいに使っているようでも、パレットなどには水や絵の具がつきます。それを画面の上に置いてしまえば、画面が汚れてしまいます。また、絵の具を混ぜる時に絵の具のしぶきがピッと飛ぶことがあるので、画面のすぐ近くにパレットをおくのもやめましょう。

また、画面を汚すのはパレットだけではありません。画手本や紙もその可能性があります。

画面の上に置いたものを動かすと、描画材(鉛筆や木炭、絵の具など)の顔料が擦れてボケたり、意図しない線を作ることがあります。たったそれだけのことですが、そんな描画材の小さな表情の違いが、画面の「像」の見え方や遠近感、立体に影響を及ぼします。

デッサン中、画面を汚すことがないように注意を払ってください。

まとめ

以上の理由から、画面はいつも見渡せる状態にしておき、上に何かを置いたりしてはいけません。実際、構図やデッサンの全体のバランス、ヴァルールを常に意識していると、そんなことはできなくなります。

デッサン力の向上にこれは不可欠ですから、初心者のうちから画面全体を見る癖をつけておいてください。