空気遠近法の一般的な現象と使いどころ

ダ・ヴィンチ※1「モナリザ」

空気遠近法は、色を使って遠近感や奥行きを表現する手法です。過去の巨匠たちは風景に空気遠近法を取り入れ、まるで遠くまで見渡しているような風景の絵画をたくさん作っています。

空気遠近法は、直線で奥行きを表現する線遠近法などよりも、感覚的に使うことができます。線遠近法は厳密すぎる、硬すぎて嫌だ、というイメージを持たれている方は、空気遠近法の方が親しみやすいかもしれません。

また、きめを利用した遠近や、線遠近法など、他の遠近法と組み合わせて使うことでさらに遠近の効果を出すことができます。

空気遠近法とは

空気遠近法とは、色に焦点を当てて、遠くのものと近くのものの距離を表す手法です。一般的に知られている空気遠近法の現象は「遠くのものほど青い」「遠くのものほど大気の色に近くなる」「遠くのものほど大気とのコントラストが弱い」の3つです。

この空気遠近法を科学的に説明するのは簡単ではなく、その内容は線遠近法ほど明快ではありません。そのため、どちらかといえば感覚的に使うことになります。効果がうまく表れるかは、数値よりも描き手の感覚と経験にゆだねられます。

写真素材「足成」

現象1|遠くにある対象は青色

昼の時間に屋外で風景を見た場合、ずーっと遠くにある風景は青く見えます。そう遠くない風景は、パッと見では青い色には見えません。

例えば、遠くにある山が青味がかって見える光景をあなたは見たことがあると思います。別の言い方をすれば、青の補色である橙色が薄くなっていく、というふうに見ることもできます。

歩きながら、バスの中から、遠くのものほど青く見えるシーンを探して確認してみてください。

現象2|遠くの対象ほど大気の色に近い

遠くのものほど、大気の色に近づきます。大気の色はその時々で異なります。先に述べた、遠くのものほど青色になっていくという現象は、大気の色が青系の色に見える場合です。

夕焼けなど大気の色が赤く見える場合、遠くにいくほど対象に赤色が混ざります。これは大気中の赤色が対象に反射しているためです。

空気遠近法で誤解されがちなことですが、どんな時でも遠くのものが青いわけではありません。青いことが多いだけです。遠くの対象を青色にして違和感がある時は、遠くに見える大気の色に近づけます。

写真素材「足成」

現象3|遠くの景色はコントラストが弱い

現象2の、観察者から遠くにある対象ほど大気の色との色が近いは、言い換えれば遠くほどコントラストが弱いということです。

コントラストの強弱は白黒に置き換えるとよりわかりやすくなります。風景写真を白黒に置き換えると、遠くのものと大気、それらの色のコントラストが弱くなっていくのが見てわかると思います。

空気遠近法の現象1と2が使えない風景も中にはあります。例えば、夕焼けの薄い赤色の大気、遠くの対象は薄い青色、というような組み合わせの時です。この場合は、色は違っても、明度を近づけることでコントラストを弱くし、遠近を表現します。

空気遠近法が有効なシーン

空気遠近法は空間が広ければ広いほど効果を発揮する手法です。しかし、静物のように狭い空間を描く場合でも使えます。

ただし、空気遠近法を大胆に使うと、実際よりも距離があるように見えてしまいます。静物や人物画と背景に空気遠近法を使う場合は、色の差を少しつけるだけで十分なこともよくあります。

参考と脚注

ジェームズ J.ギブソン『視覚ワールドの知覚』新曜社、2011年

MAU造形ファイル「空気遠近法」(閲覧日:2017年4月)

※1
レオナルド・ダ・ヴィンチ(イタリア:Leonardo da Vinci
1452─1519