明度のコントラストを使って陰影をデッサン

モネ※1「散歩、日傘をさす女性」

「影の部分はできるだけ黒くするものなの?」いいえ、そんなことはありません。鑑賞者に影だと感じさせることができれば、影の色は何色でもいいのです。

典型的なキアロスクーロ画法で描かれた影は黒っぽいものが多いです。現代に近づくほど、影の中の色は多くの色味で溢れています。

どちらにも共通するのは、明度のコントラストを利用して陰影を描く、ということです。

強い光を描くときは黒が効果的

強い光を演出したい場合は、陰影の部分に黒色を入れると効果的です。陰影の部分に黒色を用いることで、光の部分を輝かしく表すことができるためです。

光の部分の色が同じなら、黒色を濃くすればするほど、光の色とのコントラストが強くなります。そしてそのコントラストが強いほど、強い光が当たっているように感じられます。

そのため、「光をもっと明るい感じで表現したい!」というときには、たいていこの方法を使うことになります。絵の具など、画材そのものの明るさは実際の光には全く及びません。そこで、陰影の方を強調するのです。

そうすれば、光を表す絵の具の色が同じでも、その色をより明るく感じさせることができます。

ラ・トゥール※2「マグダラのマリア」

暗示的に陰影をつける

光と陰影の様子を再現するのではなく、暗示する方法もあります。マティスの絵画を例にあげます。この絵は、陰影の部分に黒色を使っていません。それどころか、「ここが暗い!」とはっきりしている色もあまりありません。

画面内の色は、その色らしさを活き活きと残したままです。それでも、この絵画からは外から室内へ差し込む光の印象を感じることができます。

これは、色と色の明度の差を利用して光と陰影を暗示しているためです。その差はほんの少しです。この方法であれば、多彩な色の効果を活かしたまま、光と陰影の印象も鑑賞者に感じさせることができます。

マティス※3「開いた窓」

明度のコントラストで陰影を表す

黒色を使うにしても、暗示的にしても、陰影をつける時の共通点があります。それは「光の部分と陰影の部分とでは明度差がある」というものです。

黒色を使う場合は、この明度差は一目瞭然です。暗示的に描く際は、光の部分に明度の高い色を、陰影の部分に明度の低い色をおきます。

どの色が明度が高く、どの色が低いのかがわかりにくい場合は、モノクロに変換するとすぐにわかります。

さきほどのマティスの絵画をモノクロに変換してみましょう。画面上部の壁の明度が、窓の桟(さん)を境に低くなっているのがわかります。ほんの少しの明度の差ですが、これが意外に陰影を感じさせる効果になっていると思います。

マティス「開いた窓」をモノクロに変換

参考と脚注

ハーバード・リード『芸術の意味』みすず書房、1966年

※1
クロード・モネ(フランス:Claude Monet
1840─1926

※2
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(ロレーヌ公国:Georges de La Tour
1593─1652

※3
アンリ・マティス(フランス:Henri Matisse
1869─1954