デッサンで基本となる線の3つの使い方

デッサンにおいて、線で表現できることは「外形」「量塊」「運動」の3つです。

外形と量塊については、対象1と対象2を分ける境界がどこなのか、どこまでが一塊の立体を持っているのかを、輪郭線や稜線の助けを借りながら示します。

運動を表す線はそれら2つとは違い、線自身の自律的な動きや構成から生まれる運動の感じ、を表す線です。

あなたが引いた線は何を表しているのか? それを知り、意識することによって、ものを観察する視点が増えます。また、表現にも少しずつ幅が出てくるでしょう。

外形を表す線

まずは外形を表すについて。これはおそらく3つの中でも多くの人にとって馴染みがあり、かつわかりやすい線の表現です。

この線は対象の外郭を表しています。対象とそれ以外を、最もわかりやすいところで区切って線にする、つまり、対象とその背景の境界に線を引くことで、その外形を表現しています。

例えば、1万5千年前に描かれた「ラスコー洞窟壁画」などの大昔の洞窟壁画にもこの線が見られます。他にも、幼い子供がお母さんとお父さんの顔を描くときに、この線を使います。

これらは対象をぐるりと囲んでいる外形を線で描き表しているのです。

> 「デッサンで輪郭線とは立体のピークを表す線」

量塊を表す線

デッサンでは量塊を表す線に「稜線」があります。稜線は立体を表すための基本的な概念で、美術分野では「面と面の境界線」を意味しています。

> 「稜線はデッサンで立体を表すための大切な要素」

デッサンで量塊に関係する言葉は、その他に「面取り」「マッス」があります。

> 「面取りはデッサンで対象を理解するコツの1つ」
> 「デッサンで一歩上達へ。量感を表すマッス」

稜線、面取りやマッスを暗示するこの「量塊を表す線」は、薄く淡く描かれていたり、陰影と一体化していたりするため、一見すると線に見えないこともあります。これは、それらがうっすら描かれた後に、他の色や線を描き込んでいくことで見えなくなることがあるからです。

稜線、面取り、マッス、これら全てを一本の「量塊を表す線」が暗示していることもあります。そのような線は、線自体が立体の凹凸感を表現していたり、そうかと思えば面の輪郭を示していたりします。

Fig.1はわかりやすいこの線の例です。左側の図にはまだ陰影がなく、線だけでその形が示されています。それでも、それはぺったんこな対象ではなく、十分な量塊を感じます。また、明部と暗部を分ける線は、同時に稜線でもあります。

Fig.1 Charles Bargue: Drawing Courseより引用

運動を表す線

運動を表す線については、外形や量塊を表す線とは表現の方向性がやや違います。

この線は、何かを具体的に示すというよりも、線自体が動いているような気配を感じさせます。「その線はどのような運動の印象を鑑賞者に与えるか」と言い換えるとわかりやすいかもしれません。

例えば、まるで線が踊っているように感じるアンリ・ミショー※1が描く線や、葛飾北斎※2の絵のように、線が適切に構成されることで生まれるダイナミックな運動の感覚のことです(Fig.2,3)。

Fig.2 アンリ・ミショーの作品
Fig.3 葛飾北斎「冨嶽三十六景 尾州不二見原」

また、アート作品として展開される「書」は、この「運動を表す線」そのものです。

この線は、実際に線自体が踊ったり躍動したりするわけではありませんが、鑑賞者にそのような印象を与えます。そしてその印象が作品の印象に強い影響を与えています。

参考と脚注

ハーバード・リード『芸術の意味』みすず書房、1966年

Gerald M.Ackerman, Charles Bargue: Drawing Course, Art Creation Realisation, 2011

※1
アンリ・ミショー(フランス:Henri Michaux
1899─1984

※2
葛飾北斎(日本:かつしか ほくさい)
1760─1849